日本は人間関係がマネジメントに与える影響が大きい
マネジメント理論はアメリカ発のものが多く、古くは20世紀初頭のテイラーの科学的管理法(テイラーシステムとも呼ばれる)に始まり、1970年代から始まった人的資源管理(Human Resource Management:HRM)、2000年代に入ってからのタレントマネジメント論など様々なものがある。
こうした理論では、マネジメントの対象となる人材はジョブ型雇用であり、仕事に必要とされる知識・スキルを持っていることが前提で、人材育成の観点は薄い。また、組織と人は契約関係で結びついており、人間関係はあまり考慮されていない。
しかし、日本では、即戦力とはなりにくい新卒一括採用と、職種も勤務地も固定しない総合職制度が中心であり、人材育成もOJT(On the Job Training)中心であることから、上司・部下、組織内、組織間の人間関係がマネジメントに与える影響が大きい。
人間関係については、個人の経験則に基づく、必ずしも汎用的で再現性があるとは限らないようなビジネス書も多数あるが、ある程度の理論化が行われている。
山本五十六の格言に見られる「日本の特殊性」
太平洋戦争開戦時の連合艦隊司令長官だった山本五十六の有名な格言は日本のマネジメントの特殊性をよく言い表している。
やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。
話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。
やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。
(Wikiquote 山本五十六より)
「やってみせ」ということは、上司は部下の仕事ができることを示しており、「させてみせ」ということは部下が最初はその仕事ができないことを示している。戦前からOJTが前提だったわけだ。
「話し合い」ということは、トップダウンばかりではないことを示しており、「任せてやらねば」ということは柔軟に権限委譲することを示している。戦前から、トップダウンではなく、組織内での役割が流動的だったことを示している。
欧米式の理論では、上司は部下に命令することが役割であり、上司が部下の仕事を肩代わりすることは自明ではなく、当然、上司は部下の仕事ができるとは限らない。部下はその仕事をするだけの能力があるから採用されているだけだ。