※本稿は、安斎勇樹『冒険する組織のつくりかた 「軍事的世界観」を抜け出す5つの方法』(テオリア)の一部を再編集したものです。
冷静な人であっても感情的に反応しがち
かつてのような終身雇用の前提が崩壊し、転職が当たり前になった現代において、会社から人が離れていくことは、もはや「日常」になりました。これは組織の世界観が軍事的だろうと冒険的だろうと同じです。どんなに波長の合う職場であっても、自身のキャリアを探究していく過程で「会社を離れる」という結論にならざるを得ないときはあるのです。
とはいえ、メンバーからの「会社を辞めます」という突然の申し出は、どんなリーダー、マネジャーにとってもショッキングなものです。これからさらなる活躍を期待していて、さまざまにサポートしてきた仲間が、いきなり会社を去るとなればなおさらでしょう。
「自分に至らないところがあったのでは……」と落ち込んだり、「なんと恩知らずな人間なんだ!」と怒りを覚えたりと、ふだん冷静な人であってもつい感情的に反応してしまいがちです。
メンバーからの退職希望は「対話のチャンス」
ですが、冒険型の組織づくりを進めるマネジャーにとって、メンバーからの退職希望は「対話のチャンス」です。もしそれが「寝耳に水」の申し出であったのならば、それは相手のなかのアイデンティティの変化や葛藤、新たな自己実現欲求の芽生えなどをうまくキャッチできていなかった証拠です。つまり、それに気づくための「対話」が不足していたということなのです。
個人のキャリアにおいて「会社を辞める」という選択は、きわめて大きな主体的決断であり、本人の内面を深く知り得る絶好のチャンスでもあります。退職の意向は尊重しつつも、これまでどんな葛藤や心境の変化があり、どんなビジョンに基づいて転職という意思決定に至ったのかを、時間をかけてじっくりと聞いてみてください。
たしかに、メンバーの転職理由について尋ねるというのは、あまり気の進まないことかもしれません。組織に対する不満はもちろんですが、上司である自分に落ち度があるかもしれないからです。ですが、ここでの対話を先延ばしにする理由はありません。できるだけ早いうちに、じっくり話を聞く時間を持つことをおすすめします。