※本稿は、安斎勇樹『冒険する組織のつくりかた 「軍事的世界観」を抜け出す5つの方法』(テオリア)の一部を再編集したものです。
変革のカギは「中間」が握っている
トップダウン型の組織変革においては、経営チームの明確な意思が欠かせませんが、それを実務に落とし込んでいく段階では、やはり経営チーム以外のメンバーにも声をかけ、公式のプロジェクトチームを組成していくことになります。
このとき重要なのが、「どれだけミドルマネジャーを巻き込めるか」です。経営の視点だけではどうやっても偏りや死角が生まれますから、現場・現物・現実に日々向き合っているミドルマネジャーの協力は不可欠なのです。
また、とくに現場に大きな影響が出るような変革プロジェクトともなると、ミドルの重要性はいっそう高まります。
現場のメンバーたちに精神的な不整合が広がらないようにするためには、「この変革が自分たちにとってどんな意味を持っているのか?」についてミドルマネジャーがストーリーテリングするプロセスが欠かせないからです。どんなに経営が熱量を持っていても、ミドルマネジャーが現場目線の熱量に変換しなければ、組織の「温度差」は高まり、かえって変革そのものが組織を崩壊させかねません。
また、ボトムアップ型の組織変革においても、ミドルマネジャーの立ち回りは重要です。
新規事業にせよ、勉強会にせよ、現場と経営の中間に位置するミドルマネジャー自身が発起人となることで、その活動はより経営から認識されやすくなります。また、現場メンバーからはじまった草の根的な活動も、ミドルマネジャーが前向きなかたちで参画し、社内向けの広報活動にも協力的だと、変革を組織全体に広げるうえでのハードルはグッと下がります。
実際、大企業における新規事業開発が失敗するとき、その原因はアイデアそのものの良し悪しよりも、社内からのサポートの有無に左右されているという研究報告もあります。ボトムアップ型の変革プロジェクトの成否もまた、ミドルマネジャーのサポートにかかっていると言えるでしょう。
責任の重みと仕事の負荷で「しんどい」
以上のように、トップダウン型かボトムアップ型かを問わず、ミドルマネジャーこそは組織変革プロジェクトを前進させていくための要なのです。
しかし、現代のマネジメントは複雑で難易度が高く、多くのマネジャーが責任の重みと仕事の負荷に「しんどい」思いをしています。
さらには後述するように、ミドルマネジャーは年齢や役割に起因する特有の悩み(アイデンティティ危機)とも隣り合わせです。
本書が提案する「職場デザイン」の心得は、いたずらにマネジャーの仕事を増やすためのものではありません。そうではなく、マネジメントの機能を組織的に「分散」させて、ミドルマネジャーたちに「変革の余力」をもたらすためのアイデアなのです。
ミドルマネジャーは組織変革の要ではありますが、だからといって、その責任をすべてミドルマネジャーに押しつけるのは避けるべきです。むしろ、ミドルマネジャーが組織変革を「自己実現の探究」に向けた絶好の機会として活用できるよう、組織全体でケアしていく姿勢が求められています。