「新しいアイデンティティ」を探求する意識を持つ

一方、プレイヤーだろうとマネジャーだろうと、個々の自己実現をあきらめないのが冒険する組織のなによりもの特徴でした。

安斎勇樹『冒険する組織のつくりかた 「軍事的世界観」を抜け出す5つの方法』(テオリア)
安斎勇樹『冒険する組織のつくりかた 「軍事的世界観」を抜け出す5つの方法』(テオリア)

ただし、それは「マネジャーになっても自分のやりたいことだけを貫き通せばいい」ということではありません。ミドルマネジャーになった以上、マネジメントの成分も自分のなかに取り込みながら、「新たなアイデンティティの探究」に意識を向けることが不可欠です。

ミドルマネジャーのアイデンティティ探究が難しい理由は、プレイヤー時代の自分と、現在の役割とのあいだに「矛盾」が生じるからです。前述した例で言えば、「手を動かしてデザインしたい自分」と「他人のデザインを指導しなければいけない自分」との矛盾です。折り合いのつかない要素が共存することで、自分の「中途半端さ」に悩み続けてしまうわけです。

こういうときは、少し視点を変えて「元デザイナーの自分が、マネジャーの立場だからこそデザインできるものはなにか?」「デザインの力で、組織を変えていくためには?」といったように、過去と未来をつなぐ問いを立て、文字どおり「新しいアイデンティティ」を粘り強く探究する意識が求められます。

組織づくりは「失った自分」を取り戻すチャンス

その意味で、組織づくりや組織変革へのコミットメントは、ミドルマネジャーのアイデンティティ探究を促進し、「失った自分」を取り戻させるための絶好のチャンスでもあるのです。

組織変革が求められているときこそ、ミドルマネジャーたちを精神的にケアしながら、積極的に変革プロジェクトを任せて、彼らの成長をあと押しする姿勢が会社側には求められます。

とくに、すでに触れたとおり、マネジメントチームは「組織の靭帯」です(本書181ページ)。プロジェクト推進にあたっては、ミドルマネジャーたちにチームとして連携してもらうようにしましょう。これによって会社の組織力そのものが底上げされると同時に、ミドルたちのなかにも「自分たちは組織を変えていけるのだ!」という手応えが育まれていきます。

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