鈴木海太(浦安ラグビースクール校長)
<ラグビーは少年をいち早くオトナにし、オトナにいつまでも少年のココロを抱かせる>という有名なフレーズがある。千葉県浦安市の浦安ラグビースクールの鈴木海太校長もまた、少年のココロの持ち主である。
47歳はアツい。同スクールのチームがこのほど、全国小学生タグラグビー選手権に初出場を果たした。東京・秩父宮ラグビー場のスタンドから、鈴木校長は子どもたちに大声をかける。
「落ち着け~!」
「いいぞ。シンタロ~(小森心太郎)!」
「いけ~!」
鈴木校長は青春時代、ラグビーに没頭した。千葉県出身。慶応中等部からラグビー部にはいり、慶応高校、慶応大学でもラグビーに打ち込んだ。卒業後、日本航空(JAL)に入社し、ここでもラグビー部でプレーした。
2003年、浦安市に引っ越した。自身の長男が浦安ラグビースクールに入ったこともあり、JALラグビー部OBが指導していた同スクールのコーチとなった。07年、周りに押されて校長に就いた。
「仕事のない土日は、“イコール・ラグビー”といった生活です」
タグラグビーとは、タックルなど接触プレーのないラグビーである。ラグビーに比べるとケガのリスクが小さく、女の子も一緒に楽しめる。ただ「勝って喜びを分かち合い、負けた悔しさを分けあうところは、ラグビーとまったく一緒」という。
部員は100人余、幼稚園の3、4歳から、小学校6年の12歳までの男女がいる。最近は、「練習でできないことが、試合でできるわけがない」と指導する。例えば、相手が付かないパス練習なら、100%成功の精度でないと試合では通用しないのだ。
ほとんど部員の親が務めるコーチには、わかりやすい平易なコトバで子どもたちに話してください、とお願いする。「躊躇するな」といった難しいコトバではなく、「止まるな」「思い切って、前に出ろ」といった具合だ。
子どもたちには、「返事をしろ」と言う。時代だろう、返事をしない子どもが増えている。「コーチの話が、わかったら、返事をしろ。わからなかったら、質問しろ。コーチの話を聞いて、黙っているナ」と。
今回、県予選には力の強い順にAからチーム分けした4チームをエントリーした。全国大会出場をかけた中関東ブロックの試合では、非情にも、浦安ラグビースクールのAチームとBチームが対戦した。意外にも、Bチームが、力は上を見られたAチームを倒し、全国大会キップを獲得したのである。
「複雑な心境でした。でも、ずっとスクール全員の目標は全国大会出場でした。みんなの努力で、その目標は達成できたのです。Aチームの子の挫折感も将来、すごく大きな財産になると思います」
そのBチーム、『浦安ウイングスブラック』はボウルトーナメント(9~16位順位決定戦に相当)の1回戦で敗れた。鈴木校長はしみじみと漏らす。
「ラグビーはココロを強くする。運動をやっているんだけど、じつはココロを鍛えているのかな、と思います」
子どもたちの成長に触れ、慈愛に満ちた鈴木校長は表情を緩めるのである。