企業の成長は、支える現場を追い越していないか
同じ構造は、AI投資以外にも現れる。
売上を急拡大させた企業で、品質管理や顧客対応が追いつかなくなる。店舗を増やした企業で、現場を任せられる人材が不足する。新しいシステムを導入した組織で、教育や業務設計が間に合わず、働く人の負担が増える。
いずれも、拡大した部分と、それを支える部分の歩調がずれた状態である。経営者が売上や投資額だけを見ていれば、成長は順調に見える。現場から上がる困難も、一時的な努力で乗り越えられる問題に見えてしまう。
だが、その負担を引き受けてきた人が離れれば、成長を支えていた能力そのものが失われる。
企業が確認すべきなのは、目標に対して何が足りないかだけではない。目標を追う過程で、何を弱らせているかである。成長の成果が見えやすいときほど、その成果を生み出している人や仕組みの状態を見る必要がある。
成長の先を読むには、成長を支える側を見る
本書で着目したのは、「動因、始まり、成長、転換点、頂点、崩れ、終わり、反復性」という8つの要素である。この枠組みを使うと、現在の強さだけでなく、その強さがどのような条件で生まれ、どこから変質するのかに目を向けられる。
今回、その読み方を『易経』の大過へ広げると、AI投資を見る問いも変わる。
巨額の投資を発表しても、それだけで計算能力は増えない。電力を確保し、地域との合意を整え、稼働まで資金をつなぐ。その条件を満たして初めて、投資は競争力に変わる。次の優位を決めるのは、拡大を支える条件を、どこまで築けるかである。
中間選挙後の市場の動きだけで、AI投資の将来が決まったわけではない。規制の具体化も、企業の対応も、これから進む。
そのなかで問われるのは、投資を続けるための条件を整える力である。国家の競争力を求める政府、事業を伸ばしたい企業、暮らしを守りたい住民。それぞれの要求を、共に続けられる事業の条件へ変えていかなければならない。
棟木がたわんだとき、重さを加えるだけでは建物を高くできない。支えを強くした分だけ、次の高さが決まる。
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