日本のサイゼリヤは、中国本土で売上高600億円を突破し、行列ができるほどの人気を集めている。一方、中国では工場で調理した食品を使っていた地元の人気外食チェーンが大炎上し、102店舗を閉鎖すると発表した。サイゼリヤも同じセントラルキッチン方式を採用しているのに、なぜ支持されるのか。中国在住のライター、上海在住のえいちゃんさんが、現地からリポートする――。
サイゼリヤに並ぶ中国の人々
筆者撮影
サイゼリヤに並ぶ中国の人々

3年間で171店舗増やしたサイゼリヤ

景気の減速感が漂う近年の中国市場において、着実に業績を伸ばし続ける日系企業がある。イタリアンファミリーレストラン「サイゼリヤ」だ。

中国におけるサイゼリヤは、手頃な価格で楽しめる洋食チェーンとして、長らく影響力を示してきた。近年は同価格帯を狙う競合の台頭により増収減益も見られるものの、拡張の手を緩める気配はない。

広州への新工場建設による現地調達コストの削減に取り組むほか武漢をはじめとする内陸部へ積極的に出店しており、中国大陸の店舗数は2023年8月期から2026年8月期までの3年間で、373店舗から544店舗に増えた。

売上高も着実に伸ばしており、同じく2023年8月期から2026年8月期までの3年間で中国本土での売上高は418.7億円から628.7億円になっている。これは、サイゼリヤの全社売上高の約2割に及ぶ。

この積極的な攻勢を支えているのは、中国の消費者からの厚い支持だ。

しかし、実は中国の外食市場において、サイゼリヤのような工場で調理・加工した食品を各店舗に配送し、店舗で加熱や盛り付けなどをして提供する、セントラルキッチン方式を採用したチェーン店が定着するのは極めてハードルが高いと考えられてきた。

なぜなら中国には、伝統的にレトルト食品※に代表されるように、調理や加工の工程を実際に目で見て確認できない食品に対する根強い忌避感が存在するからだ。

※編集部注:中国では、工場などで事前に調理・加工した食品を「預製菜よせいさい」と呼ぶことがある。日本のレトルト食品より広い意味で使われるが、中国政府は2024年、セントラルキッチンで調理した食品などを対象から除外する定義を示した。本稿では、中国の消費者がSNSなどで使う広い意味の「預製菜」を、便宜上「レトルト」と表記する。

そのような環境にあってもサイゼリヤは中国の人たちにSNSなどで「レトルトの王」と呼ばれ、むしろ好感を持たれている。本稿では、そのワケをお伝えする。

中国人が「作りたて」にこだわる理由

中国では大衆食堂の基本は「現炒(その場で鍋を振るって炒めること)」であり、出来立ての鮮度や「鍋気(中華鍋から立ち上る香ばしさ)」こそ、料理の価値とされる。消費者も、そこにこだわる。

対照的に強い警戒感を向けられているのがレトルトや加工食品だ。その理由は、もちろん単なる好みではない。背景には中国社会における食の安全に対する根強い不信が存在している。

「現炒」の大衆食堂
筆者撮影
「現炒」の大衆食堂

中国では、食の安全を揺るがす事件がいまも後を絶たない。直近でも2件、中国国内を揺るがす事件が起こっている。

たとえば2026年8月、中国河北省では、白菜の買い付け業者が鮮度維持のために発がんの危険性も指摘されている化学物質、ホルムアルデヒドに白菜をつけていたことが判明した。さらに9月には広東省の一部の食品加工場で、生のタケノコを硫黄でいぶして漂白する、禁止された加工を行っていることが判明し、いずれも大きく報じられた。

レトルト食品も決して安全ではない。中国では毎年3月15日の「世界消費者権利デー」に合わせ、国営の中国中央電視台(CCTV)が悪質な企業を告発する特別番組「3・15晩会」を放送している。

2024年の同番組において、中国の伝統的な豚肉料理である「梅菜扣肉」のレトルト製品を扱う工場が取り上げられた。原料に使われていたのは、食用が禁止されており本来は切除すべきリンパ節や甲状腺といった部位が残ったままの劣悪な豚肉だった。

大量の冷凍肉が包装もされず、むき出しで屋外に放置、容器は洗浄が不十分なまま繰り返し使用されているなど、衛生面も劣悪だった。こうした実態が暴露され、中国社会に大きな衝撃を与えた。

こうした背景もあって、消費者は常に「自分たちは何を食べさせられているのか」に注意の目を光らせている。その疑念が頂点に達し、中国全土を巻き込む炎上へと発展したのが、2025年秋に起きた大手中華チェーンをめぐる騒動だった。