なぜ「レトルトの王」は支持されているのか

炎上の末、西貝のブランドイメージは音を立てて崩壊していった。

騒動が起こった2025年9月から2026年3月までの半年あまりで西貝の累積損失は6億元(約120億円)を突破する見通しだと、賈は2026年1月に明かしている。また全店の約3割に当たる102店を順次閉鎖すると発表。約4000人の従業員に影響が及ぶとされる。

この騒動のさなか、中国のSNSでは、あるトレンドワードが浮上していた。

それが「なぜ誰も『レトルトの王』サイゼリヤを責めないのか?」というものである。

サイゼリヤは西貝の炎上騒ぎの渦中にあって、西貝と同様にセントラルキッチンを使っている企業として名指しで比較されていたにもかかわらず、SNSでは延焼するどころか支持されていたのだ。

西貝をめぐる論争の際、告発者の羅永浩はこう言い放っていた。

「どうせ新鮮な作り立てじゃないのは最初から分かっている。だったら、缶詰の値段で売ればいい」

この言葉こそが、サイゼリヤが中国で愛され続ける理由のすべてを物語っている。

中国人が評価する「価格に見合う料理」

サイゼリヤは1人あたり30〜40元(約600〜800円)で腹一杯食べられる。地域によってバラつきがあるものの、中国の日常使いの外食の相場20~40元(約400~800円)とは大きく変わらない。チェーン店としては、なかなかにお得だ。

中国の消費者は、この価格帯のファミレスに対して「一流シェフが手作りする料理」など求めていない。求めているのは、支払った対価に見合う安心と満足感だ。

サイゼリヤのメニュー、おなじみのミラノ風ドリアだけでなく半熟玉子かけ麻辣ドリアという中華風メニューも
筆者撮影
サイゼリヤのメニュー、おなじみのミラノ風ドリアだけでなく半熟玉子かけ麻辣ドリアという中華風メニューも

特に中国でのサイゼリヤ人気を支えているのは、若年層だ。

大学への進学や就職で大都市に出てきた中国の若者の中には、サイゼリヤが生まれて初めて入る洋食レストランだったという人も多い。

そもそも中国では1980年から2000年代にかけて、洋食は高価なものであるとみなされてきた。とりわけ洋食を提供するレストランは、上流階級や政府高官、外国人など富裕層が飲食をする場という認識が共有されてきたため、中国では洋食は「高貴」「上等な食事」というイメージが定着している。

なけなしの生活費を握りしめ、「洋食は高いのではないか」と怯えながら入った初めての洋食店で、街角の大衆食堂と変わらない価格表を目にしたときの安堵感。