2026年、石油の重要な搬出路であるホルムズ海峡の封鎖が世界経済に甚大な影響を与えた。しかし、アジアにもエネルギー輸入の要所が存在するという。著作家・宇山卓栄さんの著書『2040年の地政学』(秀和システム新社)より、一部を紹介する――。
中東と東アジアを結ぶ「最短の道」
中東の関所が閉じたとき、世界の視線はアジアの海にも向きました。インドネシアとマレー半島にはさまれ、シンガポールの沖を抜けるマラッカ海峡です。2026年7月、ホルムズ海峡での通航料をめぐる議論が持ち上がると、「ではマラッカのルールはどうなっているのか」という問いが、あらためて世界の関心を集めました。
この海峡が担っているのは、世界の海上貿易の2割余りです。しかし、オランダの工科大学の研究者による分析では、世界の海上貿易がもっとも強く依存しているチョークポイントは、ほかのどこでもなくこのマラッカ海峡でした。年間およそ9万隻が行き交い、中東の原油とLNGを東アジアへ運ぶ最短の道でもあります。
ゆっくり走る船を狙う海賊たち
そこでいま、異変が起きています。
一つは混雑です。紅海を避けて喜望峰を回る船が増え、到着の遅れが積み重なった結果、この海峡の周辺では船の渋滞が悪化しました。
もう一つが、その渋滞に付け込む海賊です。アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)の集計では、マラッカ・シンガポール海峡での海賊や武装強盗の事件は、2025年の1月から6月で80件に達し、前年同期の約3.8倍に跳ね上がりました。渋滞による入港や進路変更で速度を落とした船が狙われたのです。
遠い中東での封鎖が、遠回りを生み、遠回りが渋滞を生み、渋滞が海賊を呼ぶ。一つの関所の目詰まりが、別の関所の治安を悪化させています。


