良かれと思った生前贈与が、かえって税負担を増やす――。1万5000件以上の相談実績を持つ相続実務士が教える、失敗しない財産の渡し方とは。
Case study
毎年の生前贈与110万円×3人×3年合計990万円が徒労に終わった理由

母の口座から毎日50万円重加算税まで課される

贈与や相続をめぐっては、さまざまなトラブルや落とし穴にはまってしまうことが少なくありません。ここでは2つほど事例を紹介します。

1つ目は、老人ホームに入居していた高齢の母の資産をご家族が不正に出金していた事例です。お母様名義の銀行口座から、ご家族が毎日のように50万〜100万円を引き出していたのです。出金の総額は1億5000万円以上にのぼりました。

ご家族の狙いは、相続税を軽くすることにあったようです。お母様には多額の財産があり、そのままでは相続時に多額の税金がかかり、自分たちの取り分が減ってしまいます。お母様がご存命の間に少しずつ引き出しておけば(50万円は「少し」とは思いませんが)、税務署の目を逃れ、相続財産を減らせると考えたのだと思われます。お母様が亡くなられて1年ほど過ぎたころに税務調査が入り、この出金が問題視されました。

お母様が老人ホームに居ながら毎日ATMに行って、引き出せるはずがありません。引き出したお金がご本人の入居費用や医療費に使われていたのならまだしも、そのままご家族の銀行口座に入金され、生活費などに使われていたこともわかりました。こうしたことは口座履歴を照合すれば簡単に判明するのです。当然ながらこの出金は生前贈与とは認められず、相続財産に加算されました。

しかも、相続税は相続の開始から10カ月以内に正しく申告・納税されなければならないため、本来納めるべき相続税に延滞税が加わり、さらに「事実を仮装した悪質な事例」と判断されたことで重加算税が課せられました。

ご家族はお母様が「使ってもいいよ」と言ったからと反論されたのですが、そうであれば「贈与契約書」を結ぶべきでした。民法では贈与は口約束でも成立するとされていますが、税務署など第三者に贈与であることを主張するためには、何らかの客観的な証拠が必要になります。

結果として、このご家族は税負担を軽くしようとして、かえって重い代償を負うことになりました。もしお母様がもっと元気なうちから相続の準備を始めておられたら、ご家族がもっと早くから相談に来ていただけていたら、いろいろと打てる手立てはあっただけに残念でなりません。

机の上に並べられた銀行の通帳と印鑑
写真=iStock.com/koumaru
※写真はイメージです

課税のピンチを救ったレシートと領収書

こちらは、私が当事者から直接うかがった話です。その方は、お父様の財産を、ご兄妹3人で相続されました。お父様は生前に信託銀行と契約しており、遺言書の作成から執行まで、すべて信託銀行に任せていたそうです。

ことの起こりは、お父様に認知症の傾向が見えてきたことでした。

「認知症と診断されると、銀行口座が凍結されてしまう」と聞いていた3人は慌てました。口座が凍結されれば、これからかかるであろう介護費用や治療費も、お父様の預金からは払えなくなります。介護がこの先、何年かかるかもわかりません。

(構成=渡辺一朗)