水資源をめぐり、中国とインドの2大国がダム戦争を繰り広げている。その最前線が「アジアの給水塔」とも呼ばれるチベット高原だ。著作家・宇山卓栄さんの著書『2040年の地政学』(秀和システム新社)より、一部を紹介する――。
チベットのヤルンツァンポ川
写真=iStock.com/Wengen Ling
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大河上流の中国vs下流のインド

2024年のクリスマス、中国はチベットに、世界最大の水力発電ダムの建設を正式に認可しました。舞台は、チベット高原を流れるヤルンツァンポ川が、山々を貫いて急降下する地点です。総工費はおよそ1兆元、日本円にして20兆円を超える、人類史上でも最大級の単一プロジェクトです。

その発電能力は、これまで世界最大だった三峡ダムの、およそ3倍にのぼるとされます。その発電量は、年におよそ3000億キロワット時、数千万世帯分の電力にも相当すると見積もられています。中国はこれを、2060年の脱炭素目標へ向けた「グリーン化」の切り札だと位置づけています。

ですが、この川は、国境を越えるとインドの大河「ブラマプトラ川」になります。下流に暮らすインドの人々にとって、上流の中国が巨大な蛇口を握ることは、悪夢にほかなりません。インドの政治家からは、有事に中国がダムの水を一気に放てば、国境の向こうへ「水爆弾」を撃ち込めるのではないか、という警戒の声が上がりました。

【図表1】ヒマラヤ・チベット高原におけるダム戦争
出所=『2040年の地政学』

南チベットに大量建設で報復

インドの対抗策も、けた外れです。2025年の半ば、インドは約770億ドルを投じて、北東部――中国が「南チベット」として領有を主張するアルナチャル・プラデシュ州を中心に、200を超えるダムを建設する計画を打ち出しました。

その狙いの一つが、中国が突然放流したときの濁流を受け止める「緩衝装置」を、自国側にも築いておくことです。上流と下流が、コンクリートの壁で対抗し合う――ヒマラヤは、ダム建設競争の最前線になっています。

しかも両国とも、こうしたダムを最新の送電網やデータセンターと結びつけようとしており、水と、電力と、データをめぐる覇権が、ヒマラヤで一つに溶け合おうとしています。