陸で半島横断という4兆円構想
一つめが、ミャンマーを縦断するパイプラインです。ベンガル湾の港から中国の雲南省まで、原油とガスの管を引き、日量40万バレル規模の原油を海峡を経ずに運び込みます。ただしミャンマーの内戦が続くかぎり、この管の安全は保証されません。
二つめが、インド洋の要所に港湾を確保していく動きです。この配置を、西側の分析家は真珠を連ねた首飾りに見立てて「真珠の首飾り」と呼びました。商業港として整えられた施設が、有事には補給拠点に転用されうるという警戒です。
三つめが、マレー半島そのものを陸で横断してしまう構想です。そして2026年、この三つめが、にわかに現実味を帯びてきました。
舞台は、マレー半島のクラ地峡です。タイ政府が進める「ランドブリッジ」計画は、アンダマン海側のラノーン県と、タイ湾側のチュムポーン県にそれぞれ大水深の港を築き、その間およそ90キロを高速道路・鉄道・パイプラインで貫くというものです。総事業費は1兆バーツ、日本円で約4兆円。タイ政府の説明では、輸送時間は平均で4日短縮され、費用は15%下がるとされます。
「海→陸→海」は手間がかかる?
2026年、この構想は大きく前進しました。4月には内閣承認が視野に入り、政府は年内の着工を目指して港湾の整備から着手する方針を示しました。中東や中国の資本を中心に、投資家の関心も高まっています。
5月にはシンガポールの閣僚が計画への関心を表明しました。海峡の関所として繁栄してきた都市国家が、自らの立場を脅かしかねない構想に関心を寄せる――それだけでも、この計画の重みがうかがえます。完成の見込みは2040年です。
ただし、疑問も残ります。船から降ろし、陸を運び、また船に積む。この積み替えの手間を考えれば、時間の短縮はうたわれるほどではないという指摘があります。タイ政府は、世界のコンテナ輸送の9割超がもともと積み替えを伴うと反論しています。港湾の建設予定地の生態系への影響についても、政府の見立てと専門家の予測に大きな隔たりがあります。
それでも、この計画がしぶとく生き残ってきた事実は重くのしかかります。クラ地峡に運河を掘る、あるいは鉄道を通すという構想は、19世紀にイギリスとフランスがタイに持ちかけて以来、150年以上にわたって浮上しては消えてきました。
運河として掘るには費用と国土分断の問題が大きすぎるため、近年は道路と鉄道とパイプラインという「陸の橋」へと形を変えています。地理が突きつける課題は、形を替えてでも解こうとされ続けているのです。

