人気チェーンを襲った「レトルト騒動」

2025年9月10日、起業家であり著名インフルエンサーの羅永浩(ルオ・ヨンハオ)が中国SNS「微博(ウェイボー)」に投じた一本の投稿が、瞬く間に外食業界を震撼させた。

「西貝の料理はほとんどがレトルト食品で、それなのに値段は高い。実に不快だ」

名指しされた「西貝(シーベイ)」は、中国全土で約370店舗を展開する、人気チェーンの一つで、西北料理を主に扱っている。西北料理は本来、街角の食堂で手軽に食べられているものだが、使用する食材の産地や品質へのこだわりを武器に、1人あたり消費額100元(約2000円)と中国の外食チェーンとしては高めの価格設定ながら、人気を集めていた。

羅の批判を目にした西貝の創業者・賈国龍(ジア・グオロン)は翌9月11日に記者会見を開き、「うちの店にレトルトなど存在しない」と激怒。「羅を必ず訴える」と宣言した。ここから「西貝vs羅永浩」の全面戦争が幕を開ける。

潔白を証明するため、西貝側は9月12日から、全国の店舗で申請して防護具をつければ、誰でも厨房を見学できるようにした。「見ればわかる」という創業者の自信の表れだった。その結果、多くのメディアの記者が西貝の奥の厨房(後厨)を訪れ撮影し、ときにライブ配信を実施した。

そして西貝の試みは最悪の結果をもたらすことになる。カメラが捉えた厨房に並んでいたのは「長期保存された冷凍食材」の数々だったのだ。とりわけ世論の怒りに火をつけたのが、こうした冷凍ブロッコリーや冷凍の牛肉ソースなどが、あろうことか「子ども向けメニュー」に使われていた点だった。

29万人以上が被害、粉ミルク事件のトラウマ

中国の親たちは一人っ子政策のもとで、長年子どもに対して愛と希望を一心に注ぎ込んでいた。そうした背景もあり、消費者はとりわけ子どもが食べるものの安全性に敏感だ。

粉ミルク
写真=iStock.com/ojos de hojalata
※写真はイメージです

親たちにこうした考えを植え付ける決定打となったのが2008年に起こった「メラミン入り粉ミルク事件」である。品質偽装を目的に工業用化学物質メラミンが乳児用粉ミルクに混入され、29万人以上の乳児が被害を受けた。そのうち5万人以上が入院し、6人が命を落としている。これは中国社会にとってのトラウマにもなった。

「一歳の子どもに、古い冷凍野菜を食べさせるのか」

西貝の事実が明らかになったあと、親たちの怒号がSNSを埋め尽くした。

厨房公開が続くなか、追い打ちをかけるようにスタッフがおたまで床の排水溝に溜まった残飯をすくう映像まで拡散した。そのおたまは調理用に酷似していたことから、衛生面への疑念も広がった。西貝は9月14日に厨房見学を打ち切った。

翌15日に謝罪文を発表した。だが、その後も代表の賈は「これはレトルトではなくセントラルキッチンでの事前調理であり、冷凍によって鮮度を保っている」と主張し続けた。

消費者の不安や失望に寄り添うことなく、自らの正しさばかりを主張する経営者の態度は、火に油を注いだ。

ネット上では「羅永浩が与えたダメージは10%、残りの90%は西貝の自爆」と揶揄される始末だ。