AIは医療現場の診断をより正確で客観的にする。そんな期待の一方で、アメリカの歯科医院では、AIが検出した虫歯の可能性を根拠に、治療件数を増やすよう医師が求められるケースも出ている。ジャーナリストのジョアンナ・スターンさんは「AIが、本来は経過観察で済むかもしれない治療まで正当化する道具として使われることがある」と指摘する――。

※本稿はジョアンナ・スターン『365日AI AIだけで暮らしてみた壮大な実験の全記録』(加藤輝美訳、ハーパーコリンズジャパン)の一部を再編集したものです。

いきなり始まったAI歯科診療

診察はごくふつうに始まった。診察室に入ると、私はリクライニングチェアに脚を乗せ、首のまわりにエプロンを着けてもらい、うがい用のプラスチックのコップに水がなみなみと入っていることを確認した。

それから椅子に体を預けて口を大きく開け、天井に取り付けられたスクリーンに映る人気リアリティー番組の再放送を見た。

鼻もだんだん、あの歯科医院特有の、歯磨き粉と医療用手袋と業務用クリーナーの入り混じったにおいに慣れてきた。

感じが良くて話しやすい歯科衛生士が、歯のレントゲン写真をたくさん撮ってくれた。撮影が終わると、それを巨大なスクリーンに映し出す。

ソフトウェアの画面上に、「Pearl AI」の文字を発見した。その瞬間、一気にテンションが上がった! なんと、ちょうど今調べてる会社だ。ただの歯科検診のはずが、気づけば完全に取材モードになっていた。

歯科医師が入ってきた。ほんの二言三言交わしただけで、彼女はいきなり私の口内問題を次から次へとリストアップし始めた。

まず手始めに、13番の歯だ。その部分にはPearl AIによって真っ赤な色が付けられている。かなり神経に近い虫歯という意味だ。

「通常のクリーニングだけ」は選べなかった

さらに私には初期段階の歯周病があり、「歯周治療」なるものを受ける必要がある、と先生から説明を受けた。またPearl AIを使って、医師は歯石の付着と初期の骨の減少が始まっていることを示すマーカーをみせてくれた。

歯科衛生士は、歯周プローブを使っていくつかの追加の計測も行っていた。歯周プローブというのは、歯と歯茎の隙間を測る小さな定規のような器具だ。

今回の診療は、通常のクリーニングだけということにしてもらえませんか? と私は医師に尋ねた。

医師は(ここからはこの医師のことをディープクリーン先生と呼ぶことにする)「それはできません」と言った。

そういう選択肢はないのだ。

先生は今後の治療計画として、4回分の予約を取ることをすすめた。うち2回はスケーリングとルートプレーニング。これは私の口の中の4つの区画すべてを徹底洗浄する作業を伴う。

3回目の治療はその6週間から12週間後で、「反復歯周治療」のため。それからさらに3カ月後、「歯周メンテナンス」を行う。

白いカレンダーの背景に白い健康な歯のモデルと歯科医の鏡
写真=iStock.com/Pla2na
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保険が適用される可能性はあるが保証はできない、と言われた。保険がきかない? となると1000ドルはかかる。昔ながらの、はい、歯ブラシどうぞ、ちゃんとフロスもしてくださいね、ですむ話はどこにいった?