AIが「売上を増やす」ために使われていた

ピザとビールを前に、ある友人がAIが歯科医院に入り込んできていると教えてくれた――それも、ろくでもないかたちで。「僕の姉と話してくれないか」と彼は言った。

彼女をダニエルと呼ぶことにしよう。勤務先について本当のことを話したら厄介なことになるかもしれないとの懸念を受けて仮名を付けた。

軍歴も含めると20年以上一般歯科医として働いてきたダニエルは、詰め物やベニア、根管治療、抜歯まで、あらゆる治療を行ってきた。現在はニュージャージー州郊外の歯科医院に勤務しているが、そこでは患者へのレントゲン写真の提示や診断の補助にOverjetを使っている。

デジタルタブレットを使って3D歯科用型を作る歯科医
写真=iStock.com/Hispanolistic
※写真はイメージです

どこかのシンポジウムで初めてAIソフトウェアの話を聞いたとき、あまり興味は覚えなかった。ただ、AIによる解析表示をいつでも呼び出せて、好きなときにAIの診断結果を出したり消したり切り替えられるのは便利だなと思った。

ところが最近、勤務先の歯科医院で、AIが「売上を増やす」ために使われていることに彼女は気づいた。同社のソフトウェアでは、青は詰め物をした部分、紫は歯の神経、赤は虫歯を表す。明るいオレンジ色か黄色で表されているのは、虫歯になりかけている部分、いわゆる「初期う蝕」と呼ばれるものを示す。さて、歯科医のあいだで意見が分かれはじめるのは、ここからだ。

「患者につけ込むための道具になりかねない」

彼女の同僚のなかには、AIが検出した結果を正当な理由として、虫歯になりかけのごく初期の部分にすぐに詰め物をしようとする人たちがいる。一方、もっと慎重な治療方針を採る医師もいる。自宅でのケア(歯磨きとフロス)を改善し、問題の部分を経過観察するのだ。

こうしたことは今に始まったわけではない。歯科治療には主観に頼る側面があり、予防的措置を取るか修復治療をするかという点で医師の意見が分かれるケースは昔からあった。ただ最近では、AIが推奨する治療の「必要性」を裏づけるデータの層が加わったわけだ。しかも、そうした治療は歯科医にとって収益性が高い場合も多い。

「使いようによっては、AIツールは歯科医が患者につけ込むための道具になりかねないんです」とダニエルは言った。

AIがより積極的な診断を後押しする道具にされていると考える歯科医は、彼女だけではない。3人の歯科医と1人の歯科衛生士に話を聞いたが、全員の話が驚くほどよく似ていた。