コロナ禍をきっかけに普及したオンライン診療とはどのようなものか。精神科救急病院で働く駒木爽さんが書いた『精神科医おどおど日記』(三五館シンシャ)から、精神科のオンラインクリニックのアルバイト経験を紹介する――。
モニタに向かって話す医師
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「休職診断書、もらえますか?」

朝8時半、自宅から電車(※1)を乗り継いで「こころのクリニック三王子」に出勤する。救急病院が、自傷行為の危険が差し迫った人、妄想に支配されて暴れ回る人などを相手にする「嵐の航海」だとすれば、こちらは大量の乗客を運ぶ「定期航路の操船」といえる。

午前・午後40人ずつを診察し、多い日だと1日100人を超える。診察ピーク時には行列ができるラーメン屋並みに患者が列を成す。午後6時に勤務が終わるころには「燃え尽きた……真っ白な灰に……(※2)」なる。

灰になりかけつつある17時すぎに飛び込みでやってきたのは、20代男性の長野さん(仮名)。瞼までかかる重めの前髪の彼は、4カ月前に大学を卒業したばかりの新社会人だ。

「4月に今の会社に入ったんですけど、企画部志望だったのに営業に配属されちゃったんです。しばらくがんばってたんですけど、上司には怒られてばっかりだし、お客さんのクレームも多くて、営業向いてないなって」

声の調子は暗いものの話し方はハキハキしており、思考の進みは問題なさそうだ。

「最近、夜に仕事のこと考えると眠れなくなったり、朝になるとお腹痛くなって、会社に行くのがつらいんです。もう仕事を休みたいです。休職の診断書って、書いてもらえますか?」

医者は患者に求められた場合、診断書を発行する義務がある。実際に会社での業務がストレスになり、病状が悪化する可能性が高ければ、「自宅療養が必要」という休職診断書(※3)を作成する。ただ、いきなり休職診断書を書いてしまうと、会社はその日から本人を休ませなくてはいけなくなるため、業務上支障が出るケースもある。そもそも「休職の診断書」を出すためにはもう少し長野さんの症状を見極めたい。

※1 自宅から電車
X県内にある自宅マンションから「こころのクリニック三王子」には電車で、「三王子病院」にはクルマで通勤している。愛車は10年ほど前、中古80万円で購入したアクア。走行距離10万キロを超えたころから加速の反応が鈍った気がするが、だましだまし乗り続けている。
※2 「燃え尽きた……真っ白な灰に……」
ボクシング漫画『あしたのジョー』の最終回に登場するセリフ。主人公の矢吹丈が、世界王者のホセ・メンドーサとの激闘の末、リング上で力尽きた姿を象徴的に表現している。作画のちばてつや氏曰く「真っ白になるまでがんばれば、新しい明日が来ると若い人に伝えたかった」。仕事で「真っ白な灰」になれれば精神科医として本望だ。
※3 休職診断書
休職診断書を書く際、「上司との人間関係が原因、って書いてくれませんか」などと注文してくる患者も。もちろん病状に影響したのだろうが、患者の主観的な意見だけを鵜呑みにはできない。