菅が狙いを定めた意外な人物
問題はいかにして流れを自分に引き寄せるか。手順としては最大派閥の細田派、第二派閥の麻生派や竹下派(のち茂木派)に頭を下げ、支持を請うこと――これが通常のやり方だ。
だが菅は違った。誰を動かせば流れを一気に加速させることができるかを考える。保身と打算の政界はオセロゲームなのだ。黒は一瞬にして白に転じる。菅は自民党実力者のひとり、二階俊博幹事長に狙いを定めた。
老獪な二階は石破、岸田とそれぞれ会食の場を設け、2人を持ち上げているという。“勝ち馬”の品定めをし、いかに自分を高く売るか駆け引きしている。だが、どっちに転んでも二階にとって逆風であることに変わりがない。
岸田は刷新感をアピールすべく自民党役員の任期制を主張している。1期1年・連続3期までという案だ。岸田が総裁になれば、2016年から幹事長を続けている二階はこれに引っかかる。一方、理念型の石破が勝てば、清濁併せ呑む「現実型」の二階にとって扱いにくい相手となる(そこへ自分が出馬を表明し、しかるべき条件を提示すればどうなるか)。
派閥の拡大路線を突き進む二階は菅に勝たせるべく全力をあげて支援するはずだ。「叩き上げ」の読みに、世襲議員の甘さは微塵もなかった。
二階に用意した手土産
菅は電光石火の動きを見せる。安倍が記者会見で辞任を正式に発表した翌日、すぐさま二階を訪ねて支援を要請したのだ。「幹事長続投」を手土産にしたことは容易に想像できるだろう。菅が仕掛けた「寝業」であった。
二階派47人が早々に「菅支持」を打ち出し、これが勝敗の流れを決めた。二階派が菅に乗ったことで各派は岸田は勝てないと判断、“勝ち馬”に乗るべく細田派、麻生派、竹下派、石原派(のち森山派)などが、雪崩を打って菅支持を打ち出す。政界のオセロゲームだった。
菅義偉 377票
岸田文雄 89票
石破茂 68票
菅の圧勝であり、鮮やかな政治的手腕は「電撃的な権力掌握」と評された。そして2020年9月16日、首相指名選挙で菅は第99代内閣総理大臣に就任する。
横浜市議選を振りだしに政治の世界に足を踏み入れて45年。「叩き上げ」で“遅咲き”の菅は才覚と努力で政界の頂点に上りつめた。無派閥出身者が首相となるのは事実上、はじめてのことだった。
