次なる課題は、商品づくり。湯葉は、日本の湯葉発祥の地――比叡山延暦寺御用達「ゆば八」から仕入れることに決めた。具材を巻くという用途を考えたとき、この湯葉の大きさや強度、味のあっさりさが適していると感じたからだ。

中の具材は「ファストフード」と名乗る以上、味の濃さや食感で満足感を出す必要がある。それらをまるごと包み込む湯葉は、あくまで脇役だ。とはいえ、最初に舌に触れるのはこの湯葉であり、そこで存在感を消してしまっては商品として成立しない。具材を引き立てながらも、湯葉ならではの風味を感じさせる、そのバランスを探っていった。

80食が3時間で完売

調理方法も、1つに絞らなかった。湯葉は本来、冷たいまま食べるのが定番だが、それだけでは「健康に、あそびゴコロを」というコンセプトが目指す“楽しく食べる”体験には届かない。そこでメニューの一部には、湯葉を焼いたり炙ったりする調理法も取り入れ、食感の幅を作り出していった。

2026年1月19日、いよいよ開店。あえて平日の月曜日を選んだ。「最初は人の少なそうな平日にして、スタッフにもゆっくり慣れてもらおうと思ったんです」。ところがその狙いに反して、用意していた80食ほどはわずか3時間で完売した。

「ちょっとなめてたな、と思って」と渡邊さんは苦笑する。見誤ったのは販売数だけでない。店内が手狭で、行列のお客さんを待たせる時間が長くなってしまった。翌日も長い行列ができ、売り切れた。

この状況を見て、開店からわずか2日で店のオペレーションやレイアウトの変更を決意する。休業期間は2日間とはいえ、最初の勢いを止める決断には、それなりの覚悟が必要だったはずだ。開店5日目の金曜日にリスタートを切り、待ち時間は着実に短縮された。

8カ月無収入から返済の日々に、でも楽しそう

ここで渡邊さんはまたしても驚きの判断を下す。メディアからの取材もあったが、あえて1カ月間は公開を控えることにした。

「レイアウトを変えても、お客さんがたくさん来てくれても、スタッフがそれに対応できなければ意味がない。販売個数を増やすにしても、増やせるだけのオペレーションをまず整えなければと思いました」

とにかく現場に慣れてもらうため、客数に対して多くのスタッフを配置した。日によっては人件費が売り上げを上回るという、通常ではありえない状態にも耐えた。

1カ月を過ぎるとメディア露出も増え、多くの人に知られる機会が増えていく。オペレーションの改善により1日に170食を提供できるようになった。1日の平均は110食ほどで、土日は完売する日も多い。

表参道で働くオフィスワーカーの中には、すっかり気に入って社内ケータリングとして活用する人もいれば、店頭やデリバリーで一度に10本以上を買っていく常連客もいる。

あれほど「意味不明」と困惑していた母親も、渡邊さんがテレビなどに取り上げられる機会が増えた今では、態度をがらりと変えたという。「最近はすごいやんって褒められますよ。あの時と全然違いますね(笑)」

ブランドロゴ。堅いイメージのある湯葉や健康をポップに表現したいと考えた
写真提供=yuppa
ブランドロゴ。堅いイメージのある湯葉や健康をポップに表現したいと考えた

妻・怜伽さんとは「僕たちいつ楽になるんだろうね」といつも話しているそう。8カ月の無収入の次は、開業にかかった費用の返済が始まっているのだ。しかし、渡邊さんはどこか楽しそうだった。彼の挑戦は、まだ始まったばかりだ。