AIは人を賢くするのだろうか。パーソル総合研究所主席研究員の小林祐児さんは「近年、欧米を中心にAIは人の能力やスキル向上に悪影響を及ぼす研究が積み上がってきている。AIを頻繁に使う人ほどその傾向は顕著で、AI活用を進める副作用といえる。AI活用が不可欠となっている今、早急な対処が必要だ」という――。
資料は立派でも、本人は中身を説明できない
筆者が企業の人事担当者やマネジャーと話していると、AIと育成をめぐって、決まって同じ種類の困惑に出会う。
「若手が持ってくる資料の質は、明らかに上がった。ただ、中身について突っ込んで聞くと答えられない」
「議事録も、簡単な調査も、下書きも全部AIがやってくれる。じゃあ、新人には何をやらせればいいのか」
「一年目とベテランの成果物が、見た目には区別がつかなくなった。育っているのかどうかが分からない」
働く本人の側からも、別の種類の声が上がる。
「自分で考える前に、まずAIに聞くようになった。これでいいのかと思うことはある」
「効率は上がった。でも、この一年で自分が何かできるようになった実感はない」
AIとスキルをめぐる議論は、しばしば「AIに仕事を奪われるか」という雇用の話に流れがちだ。だが本稿が扱うのは、仕事は手元に残ったまま、それを遂行する人の能力向上の機会がAIに奪われるという現象だ。

