AI導入後、医師の腫瘍発見率が低下した事例も
最も分かりやすいのが、もともと持っていたスキルや判断能力の衰退を示す「デスキリング」である。
2025年に掲載された内視鏡医を対象とした研究では、AIを導入した後、医師が「AIを使わないとき」の腫瘍発見率が28.4%から22.4%へと有意に低下したことが示されている(※2)。AIを使えないときの状態の、素の技能が落ちているのである。
同じ現象は、より一般的な知識労働でも観測されている。マイクロソフトとカーネギーメロン大学が知識労働者を対象に行った調査では、AIの能力を信頼している人ほど、出力に対する認知的努力(Cognitive Effort)が低下していた(※3)。自ら考える力を、自らAIへと外部化しているのだ。
英国の別の研究では、AIツールの利用頻度と批判的思考力のあいだに有意な負の相関が確認された(※4)。しかも、この関係を媒介していたのが、「認知オフローディング」、すなわち思考を道具に預ける習慣だった。AIに考える工程を渡してしまうこうした「思考の外注化」が、批判的思考を損なう可能性を示唆するものだ。
なお同研究では、若年層ほどAI依存が高く批判的思考スコアが低い一方、学歴の高さが負の効果を一部緩和していた。省察する習慣そのものが、防波堤になりうるという示唆である。
※2 Budzyń, K. et al. (2025) “Endoscopist deskilling risk after exposure to artificial intelligence in colonoscopy,” The Lancet Gastroenterology & Hepatology.
※3 Lee, H.-P. et al. (2025) “The Impact of Generative AI on Critical Thinking,” Microsoft Research × Carnegie Mellon University, CHI 2025.
※4 Gerlich, M. (2025) “AI Tools in Society: Impacts on Cognitive Offloading and the Future of Critical Thinking,” Societies, 15(1).
AIの間違いを、人間が覚えてしまう
二つ目は、能力が落ちるのではなく、誤ったものが身についてしまうという「ミス・スキリング」である。
使っていればすぐに実感するように、AIはある種の構成、ある種の言い回し、ある種の論理展開など、独特の「癖」がある。それを日常的に浴び続ければ、人はそれを標準として学習する。AIのバイアスや間違いを、疑うべき対象としてではなく、模倣すべき型として取り込んでしまうのだ。
スペイン・デウスト大学の研究者らは、参加者に架空の医療診断課題を行わせ、一方の群には系統的な誤りをわざと持たせたAIのサポートを与えた。その結果、支援を受けた群はAIと同じパターンの誤りを犯すようになったという。
そして、さらに示唆的なのは、参加者の80.7%は、AIの推奨に誤りがあることに気づいていた。気づいたうえで、なお従っていたということだ。そしてAIを取り去った後も、その誤りは続いた。AIの偏りが、本人の判断基準として定着したのである。
研究者らはこれを「バイアスの相互継承」と呼ぶ。AIは人間のデータから偏りを受け継ぐ。そして今度は、人間がAIから偏りを受け継ぐ。両者は、閉じたループの中で互いの歪みを増幅しあう。
多くの人は、システムの誤りをそのまま受け入れてしまいがちということは、人間工学の分野では「自動化バイアス」として古くから知られてきた。これは、自動化されたシステムの推奨を過度に信頼し、自分の判断より優先してしまうことを指す(※5)。生成AIの出力はきわめて流暢で、体裁が整っている。その流暢さは、正確さの証拠ではないにもかかわらず、私たちはそれを信じてしまいがちということだ。
※5 Mosier, K. L., Skitka, L. J., Heers, S. & Burdick, M. (1998), “Automation Bias: Decision Making and Performance in High-Tech Cockpits,” International Journal of Aviation Psychology, 8(1), pp.47-63.


