AIが学習を助けるケースもある

アンチ・スキリングとして悲観的な話が続いたが、AIが学習を助ける側面も、研究からは示されている。たとえばハーバード大学で物理学の授業で行われた研究では、学習目標に合わせてカスタムされたチューターAIを使った学生は、より短い時間で2倍以上多く学んでいた(※10)。世界銀行が実施した医学生に対する実験でも、教師の監督下にあるAIチュータリングは、問題解決の短期的パフォーマンスを大幅に向上させたという(※11)

ただ、いずれも、学習させることを目的として設計されたAI利用だ。職場での多様な仕事のために、AIが自由に使われている状況ではない。AI時代の人材育成の方向は、やはり組織が促す必要があるだろう。

※10 Kestin, G., Miller, K., Klales, A. et al. (2025) “AI tutoring outperforms in-class active learning: an RCT introducing a novel research-based design in an authentic educational setting,” Scientific Reports.
※11 Georgetown University School of Medicine (2025) “ChatGPT as a Learning Tool for Medical Students: Results From a Randomized Controlled Trial.”

AI依存の副作用を止める処方箋

では、それはどのような方向だろうか。

パーソル総合研究所の調査は、育成の方向性も定量的な示唆が得られている。結論から言えば、「AI依存」によるアンチ・スキリングを防ぐ鍵は、やはりAIの「外側」にある。

分析の結果、AI環境で重要となる思考・マインドに対してプラスの関連が確認された仕事経験は、三つであった。

【図表7】AI環境で必要なスキルと仕事経験の関係
出所=パーソル総合研究所「AI環境における人材とマネジメントに関する定量調査」

手触り経験:サービスや商品が届いている「現場」を見る、仕事について誰かと対面で本気で議論する、顧客や同僚から直接感謝される、といった身体的・対人的な経験である。これは立体思考とアニマル・スピリットに対して、群を抜いて強い関連を示した。

見渡し経験:部門連携や複数関係者のプロジェクト推進、組織の戦略・企画立案、部下や後輩の育成といった、組織や人を俯瞰する経験である。

踏み出し経験:出向、副業・兼業、社外勉強会、海外勤務など、組織を越境する経験だ。こちらはアニマル・スピリットとの関連が強い。より大規模な調査からは、立体思考との関連も示されている(※12)

ここで一つ、意外な結果も紹介しておきたい。大きなトラブルや事業撤退といった修羅場経験は、立体思考に対してマイナスだった。修羅場が人を育てるという言い伝えは、少なくとも複数視点と長い時間軸を養うという意味では支持されない。極限状況は、視野を狭めるのである。

【図表8】AI環境で大切になる仕事体験
筆者作成

※12 パーソル総合研究所・ベネッセ教育総合研究所・中原淳「就業者の社会貢献意識(ソーシャル・エンゲージメント)に関する定量調査」