日本は「スパイ天国」と言われる。どうやって技術や情報が持ち出されているのか。元警視庁公安部外事課の勝丸円覚さんは「後継者のいない中小企業が会社ごと買われ、技術を社内移転の形で海外へ持ち出されるケースがある。さらに、ある法人を取得すれば、森林や水源地だけでなく、人脈や個人情報まで手に入る。こうした手口はスパイ防止法だけでは防げない」という――。(第2回)

※本稿は、勝丸円覚『日本を静かに侵食するスパイの手口』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

日本のパトカー
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中小企業、地方の企業こそ狙われる

昔も今も、スパイが狙う対象の中に企業があることは変わりません。ただ、現代ではその意味がさらに大きくなっています。

かつては、軍事情報や政治情報が中心でした。それももちろん重要ですが、現在は、企業が持っている技術、情報、人脈、さらには企業同士を結ぶネットワークそのものが、スパイにとって極めて大きな価値を持つようになっています。

特に注意してほしいのは、中小企業や地方の企業です。

大企業は狙われても、防御のための部署があり、専門人材もいて、システムにも投資している。ところが、中小企業や地方企業では、そこまで手が回らない。日々の経営に追われ、技術や製品の開発に忙しく、セキュリティーの勉強や教育にまで時間も人手も割けない。結果として、狙われたときに侵入されやすいのです。

中小企業の経営者の方と話すと、「うちなんか町工場ですよ」「地方の小さな会社ですから」「こんな技術、スパイがほしがるわけがないじゃないですか」という反応がよくあります。

しかし、そこがまさに危ないところなのです。日本国内だけを見れば、確かに競合他社がいて、特別に目立たない技術かもしれません。ところが、その技術を国外に持っていったらどうか。

盗まれた技術情報が、特許申請されていたことも…

たとえば、日本より技術水準の低い国に持っていけば、それだけで十分に価値がある。軍事転用できるものでなくても、国営企業やその国の産業全体の底上げに使える可能性があります。

本来であれば、その技術は正当に買わなければいけないものです。ところが、それを盗んで持っていけば、相手はただで使える。さらに改良されて、逆に日本企業の競争相手として戻ってくることすらある。

特許申請前の技術なら、なおさらです。盗まれて先に申請されてしまえば、特許権を取られる可能性がある。

実際に、日本企業の中で、中国籍の社員が社内の情報を抜き取り、それを外部に送ったケースもあります。しかも、送られたのは、まだ特許申請前の技術情報でした。その社員は後に別の会社に移りましたが、ログを確認すると、本人の業務とは関係のない部署の情報に何度もアクセスしていたことがわかった。さらに、その情報が送られた直後に、外国側で特許申請されていたことまで判明した。こういうことが、現実に起きているのです。

狙われるのは工業製品だけではありません。農業もそうです。他にも、和牛やウナギの養殖技術など、日本の技術やノウハウが詰まっているものであれば、何でも対象になり得ます。

実際、日本でしか出回っていないはずのシャインマスカットの苗木が海外に流出し、生産されているとして問題になっています。これは一部の特殊な話ではありません。取れるものは何でも取る。使えるものは何でも使う。これがスパイや産業工作の基本姿勢です。