スパイは、どのように近づいてくるのか。元警視庁公安部外事課の勝丸円覚さんは「ハニートラップが思い浮かぶと思うが、映画のような“絶世の美女”が来ることはない。スパイはターゲットの好みや弱みを見抜き、それに合わせて送り込んでくる」という――。(第3回)

※本稿は、勝丸円覚『日本を静かに侵食するスパイの手口』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

エレガントに配置された手のクローズアップ
※写真はイメージです(写真=iStock.com/Images we create and what actually happens are always beautiful when we have imagination)

スパイは“あなたの弱点”を知っている

ハニートラップや人間関係を使った工作というと、つい「色仕掛け」や「美人局つつもたせ」のような、わかりやすい場面を思い浮かべがちです。もちろん、それもあります。しかし、現実のスパイ活動は、そこまで単純ではありません。本質は、「相手が何に弱いのかを見抜き、そこに合わせて接近してくる」ということです。

これは、外国のスパイ組織だけがやっている特殊な話ではありません。公安警察が情報提供者を使うときも、あるいは民間企業が人を引き抜こうとするときも、基本的な発想は同じです。

相手は酒に弱いのか、お金に弱いのか、異性に弱いのか、あるいは社会的な承認欲求が強いのか。その人が何を与えられると喜び、何に心が動くのかを見たうえで、そこに合わせた形で接近していくのです。

スパイも、まったく同じことを考えています。つまり、最初から一律の手口で来るわけではない。誰にでも同じように金を渡すわけでもないし、誰にでも同じ異性をあてがうわけでもない。

その人を観察して、「この人は何になびくか」を見極めたうえで、最も効果のあるやり方を選ぶのです。

狙われるのは「金・異性・酒」

一般の読者の方に、まず知っておいていただきたいのはこの点です。スパイの接近方法はいくつもあり、自分がどこを狙われやすいのかは、人によって違う。

・お金に心が動く人もいる
・異性に弱い人もいる
・酒席で気が大きくなる人もいる

そして、そこでターゲットにした相手が、金銭に弱いのか、異性に弱いのか、酒に弱いのかを見抜かれると、その方向の接待や働きかけが始まります。

結局のところ、やっていることの骨格は、スパイも民間企業も同じです。相手の弱点を見て、そこに合わせて取り込んでいく。ただし、スパイの場合は、その先にあるものが、単なる転職や商売ではなく、国家的な情報収集や工作活動だという点が違うだけです。

スパイというと、特別な訓練を受けた冷徹な工作員を想像する方が多いかもしれません。もちろん、そうした側面がないわけではありません。けれども、実際に情報を取る場面で最も重要になるのは、もっと人間的な能力です。

スパイが相手の好みや弱みを見抜き、それに合わせて接近の仕方を変えてくる、というのはすでにお話ししましたが、この中に、ハニートラップも入ります。