まず試す力と、深く考える力は別々に育てる
その他、調査からは、AI環境において重要な思考・マインドと、学習スタイルとの関連なども明らかになっている。アニマル・スピリットは「人を巻き込んで学ぶ」「失敗を乗り越えて学ぶ」スタイルと正の関係。立体思考は、「掘り下げて学ぶ」「意味づけて学ぶ」スタイルと正の関係にある。「楽しんで学ぶ」「学びを広げる」スタイルは共通して正の関係が見られた。
注目すべきは、この二つが交換可能ではないという点である。読書をいくら重ねてもアニマル・スピリットは育たず、副業や社外活動をいくら経験しても、それだけで立体思考が育つわけではない。育てたい特性ごとに、経路が違う。片方に寄った施策は、片方に寄った人材を生むことになる。
こうしたことを総合的に勘案し、施策に落とすなら、AI時代の育成アプローチは大きく二つになる。
まず、アニマル・スピリットを育てるには、「仲間と集まって失敗できる機会」を増やすことだ。
小さく試せる場をつくる、失敗談の共有を奨励する、試した人が得をする評価にする。実際の事例で言えば、「しくじり先生」型の事例共有会、ストレッチ評価、ラーニング・コミュニティといった施策がある。
すでに前のコラムでは、アニマル・スピリットが年を追うごとに下がるという組織による「家畜化」という現象を示唆した。「失敗を許さない」組織において一人で失敗すれば、それは損失として記憶される。だが仲間と一緒に失敗すれば、笑い話にも、共有された知見にもなる。誰かが一緒に受け止めてくれる見込みがあるとき、人は次も新しい挑戦に手を伸ばせる。
思考の立体性を育てるには、「今の当たり前」を相対化させる機会を増やすこと。物事の背景・文脈・歴史を知る、いつもの仕事から離れる経験を与える、経験から何を学んだかを言語化する。外部副業のあっせん、企業コラボでのPBL、哲学対話、クロス・メンタリングなどがこれにあたるだろう。
前提を疑うためには、疑うための「別の前提」を知る必要がある。長い時間軸で考えるには、数カ月、1年といった短いパフォーマンスだけを追っているだけでは難しい。今の「当たり前」を相対化する力は、無から生み出すことはできない。別の前提に触れた経験の蓄積が、そのまま視点の数になる。
5年以内に若手育成の問題が噴き出す
そして、二つの学びに共通するのは、いずれもAIの利用の「外側」にある経験や学びである点だ。本稿で見てきたアンチ・スキリングは、「AIに頼りすぎないよう気をつけましょう」という啓発で解決する話でも、個人の心がけの問題でもない。AIを使い倒すという仕事の仕方とは「別」に、育成プランを設計する必要がある。
おそらくこのままのAI依存が続けば、今後5年間で特に若手の育成課題は噴出するのではないかと筆者は感じている。組織による「育成の洗い替え」がこれほど必要になる時代もないだろう。



