「儲かる仕組み」を従業員に還元
こうして老祥記では、原価率の低い商売が実現されている。この粗利率の高さは従業員にも還元されており、正社員の給与の平均は、日本の上場企業の平均を上回る。楽な仕事ではないが、正社員の離職率は低く、定年までつとめあげる人が多い。
この高い収益性を、南京町の外でも再現するのは難しいかもしれない。毎日大量の豚まんをつくり、売り切っていくには、来客が絶えない店となる必要があるわけだが、よほど好条件の場所に出店しなければ、その実現は難しい。そのような好条件の物件は、賃料も高い。
老祥記が小さくとも高収益である理由の一つとして、立地のよさは無視できない。南京町は神戸の繁華街にあり、多くの人が行き交う。東側の通りの向かいには百貨店が店を構え、北側には神戸の老舗などが店を構える元町商店街が広がる。おかげで老祥記の周りには、地元の買い物客や、遠方からの観光客が回遊している。
老祥記の前に並んでいる人たちは、豚まんを買い求めるためだけに出掛けてきたわけではない。神戸の三宮・元町界隈に出て、食事をしたり、買い物をしたり、映画を見たり、街角のイベントを楽しんだりするなかで老祥記に立ち寄り、豚まんを買って小腹を満たしたり、お土産に持ち帰ったりしようとしている人たちである。
区画整理で街の集客力が上がった
100年を超える歴史をもつ老祥記だが、店の前に行列が絶えなくなったのは、その折り返し点を経た1980年代以降なのだという。1970年代の後半以降、南京町の周辺は神戸市の土地区画整理事業の対象となる。10年ほどの年月を経て、道路が広がり、南楼門や長安門が建てられ、あづまやのある広場が整備された。そして、南京町商店街振興組合が創設され、毎年2月には春節祭が開催され、多くの人を集めるようになった。
それ以前の南京町は、道も狭い裏通りで、若い女性には敬遠されるような場所だった。老祥記の豚まんを買い求める人たちはいたが、今のように大勢の従業員を雇うほどではなく、家族で店を回していた。
今の南京町の環境があるからこそ、老祥記には行列が生まれる。今の老祥記は店内で豚まんをつくる様子を、行列に並んで待つあいだも店の外から見えるようにしている。店の周囲には異国情緒を感じられる街の空間が広がり、それもまた行列客の目を楽しませる。

