山奥の農村に外国人10人が集まった
初夏の日差しが感じられる朝、10人の外国人ツーリストが、大分県杵築市の山間部の集落、大田地区にある小さな木造平屋のオフィス「蝙蝠亭」の前に集まった。オーストラリア人の初老の夫婦、単独参加のカナダ人、シンガポール人の女性グループと国籍はさまざまだが、アウトドアのファッションに身を包み、リラックスした雰囲気だ。観光名所に詰めかけるインバウンド旅行客のイメージとは少し違う。
蝙蝠亭の周りに観光地の雰囲気はまったくない。農家が点在しているほかは、田畑や小川や山ばかりだ。以前は大田村と呼ばれた大田地区の人口は1000人足らず。65歳以上の高齢者が半数以上を占める。国連の世界農業遺産に認定されている地域とはいえ、日本人にとっては何の変哲もない農村だ。
「われわれのツアーはいつも人里離れたところ(off the beaten track)で行っています」。ツアーの主催者で、在日24年の英国人ポール・クリスティさん(64歳)がツアー参加者を前に英語であいさつすると、参加者一行は記念写真の撮影後、リトアニア人のツアーリーダー(添乗員)、イグナスさんを先頭に歩き始めた。クリスティさんは、蝙蝠亭などを拠点に外国人向け旅行事業を展開している旅行会社「Walk Japan」の最高経営責任者(CEO)だ。
「なぜ神棚と仏壇の両方があるのか」
田畑のなかを抜けて、標高300mほどの小さな山に入っていく。1時間余りのハイキングでクリスティさんやイグナスさんが周りの樹木や孟宗竹などの説明をする。山のふもとには切り出した原木を利用した椎茸の栽培場所があり、ツアーの参加者は栽培の手順などについて興味深そうに耳を傾けていた。
クリスティさんは樹木の樹齢や山桜の咲く場所などについて実にくわしく知っている。それも当然、この山自体がクリスティさんの所有なのだ。
山を下り切ったところに、昔ながらの農家があり、ツアーの参加者は母屋の広間に案内される。20畳くらいの日本間で、長押に先祖代々の写真が飾ってある。床の間には神棚、その横には仏壇がある。座卓を囲んで畳に座った参加者からは、初めて見る日本の農家について「なぜ神棚と仏壇の両方があるのか」「仏壇の扉はなぜ閉まっているのか」などさっそく質問が出る。イグナスさんは英語でこの地域の神仏習合の文化などを説明した。


