82歳の「えっちゃん」のもてなしに涙する人も
まもなく「えっちゃん」という愛称で親しまれている女主人の脇坂悦さん(82歳)が日本語で「いらっしゃい。お茶とお菓子をどうぞ」とあいさつし、参加者全員に日本茶とお茶菓子をふるまった。Walk Japanのツアーの一環として数千人以上の外国人ツーリストをもてなしてきたえっちゃんだが、英語は話せない。それでも、ごく自然に参加者一行と心が通いあっているように見えるから不思議だ。
さきほど椎茸栽培を見学した参加者から「お気に入りの椎茸料理はなんですか」と問われると、「人参と揚げのおこわやな」と方言で答え、イグナスさんが椎茸ごはんについて英語で解説する。参加者はなんとなく想像がつくのか、うなずきながら聞いている。
えっちゃんの家でのもてなしに日本の文化の原点を感じるのか、参加者のなかには感激して、別れ際にえっちゃんの手を固く握って離さない人もいた。以前訪れた日系人のツアー参加者は先祖のぬくもりを感じてえっちゃんの前で泣き出してしまったという。一行は昼前にえっちゃんの家を辞し、マイクロバスで次の目的地である杵築市の武家屋敷の観光に向かった。
日本人すら来ない場所に外国人がやってくる
この日集まった外国人ツーリストが参加したのはWalk Japanが企画した大分県の国東半島と湯布院をめぐる4泊5日のウォーキングツアーだ。参加者はJR中津駅で集合し、英語と日本語を話すガイドともに地元の温泉旅館などに泊まりながら、一部マイクロバスも利用しながら基本的には徒歩で移動し湯布院で現地解散する。訪ねる先は、宇佐神宮や湯布院の温泉町といった比較的有名な観光地もあるものの、大半は熊野摩崖仏、富貴寺、杵築市の武家屋敷、この日の大田地区といった日本人観光客ですら足を向けることの少ない場所だ。観光地をめぐるというより、日本の田園地帯を歩いて肌で感じるのがツアーの主な目的といえる。
Walk Japanは外国人顧客を対象とした日本向けツアー専門の旅行会社で、本社を香港に置くものの、企画や仕入れは大田地区に住むCEOのクリスティさんの指揮の下、日本の子会社とともに日本国内で行っている。創業34年と日本へのインバウンド事業の草分けだが、そのツアーのスタイルは外国や日本の旅行会社とはだいぶ違う。
ほとんどのツアーは、国東半島のようなoff the beaten trackのいなかを徒歩でめぐるウォーキングツアーだ。現地集合解散が原則で、徒歩以外の移動手段を使う時もローカル鉄道のような公共交通機関かマイクロバスなどに限られる。インバウンドのツアーでよくみる大型の貸切観光バスは使わない。「車内は外国人だけになってしまうし、車窓から見た景色では日本を見たことにならない」というクリスティさんの考えによるものだ。

