フジテレビのドラマ現場で起きた俳優・佐藤二朗氏のパワハラ疑惑を『週刊文春』が報じてから波紋を広げたまま、いまだ決着がついていない。東北大学特任教授で人事・経営コンサルタントの増沢隆太さんは「危機対応で問われるのはハラスメント認定の是非ではない。誰が意思決定し、その責任を引き受けたのかというガバナンスである」という――。
2019年10月15日、フランスのカンヌで開催されたテレビ・エンターテインメント見本市「MIPCOM」にて、ドラマ「帰郷(The Return)」のフォトコールでポーズをとる佐藤二朗氏
写真=AFP/時事通信フォト
2019年10月15日、フランスのカンヌで開催されたテレビ・エンターテインメント見本市「MIPCOM」にて、ドラマ「帰郷(The Return)」のフォトコールでポーズをとる佐藤二朗氏

中居問題の傷が癒えない中、新たな火種

長年、企業のハラスメント対応に携わってきた立場から見ると、佐藤二朗氏を巡る一連の問題は、出演者同士のトラブルやハラスメント問題にとどまりません。企業として「誰が、何を根拠に、どのように判断したのか」という意思決定のあり方が問われた、ガバナンス上の問題として捉えるべき事案です。

フジテレビは、2024年末に表面化した中居正広氏を巡る問題への対応をめぐって昨年大きな社会的批判を受け、経営体制の見直しにまで発展しました。

その反省からコンプライアンス体制を強化してきたはずですが、今回の対応を見ると、むしろコンプライアンス強化を急ぐあまり、法的リスクへの対応が先行し、経営判断としての説明責任とのバランスを欠いた結果、皮肉にも新たな危機を招いた可能性はないでしょうか。

事の発端は、ドラマ制作現場での佐藤二朗氏と橋本愛氏を巡るトラブルに関する週刊誌報道でした。人気俳優同士という話題性に加え、責任を問われている佐藤氏自身がSNSで自嘲気味に表現したように、「か弱い若い女性と、典型的な昭和のパワハラオヤジ」という構図のイメージは、一気に世間の注目と批判を集めることとなりました。

報道翌日に対応したことは良かったが…

フジテレビは報道翌日に公式コメントを公表し、出演者のプライバシー保護を訴える一方、男性俳優への厳重注意や、橋本氏への誹謗中傷を控えるよう呼びかけました。炎上する事案に対してスピード感を持って対応することは、危機管理の原則です。

過去の大事件の教訓が生きていると感じます。公式発表には、出演者のプライバシー保護の観点から週刊誌報道に抗議したこと、佐藤氏の言動に対して厳重注意を行ったこと、そして橋本氏へのネット上の誹謗中傷を止めるよう呼びかける内容が含まれていました。

しかし、この第一弾の発表は悪手となりました。直接的な実名を避けつつも、もはや誰だか明らかな「男性俳優」の行動を厳重注意したことで、結果的に「橋本氏が一方的な被害を受けた」という週刊誌側の告発ストーリーと軌を一にするスタンスに見えてしまったからです。

今回の現場におけるトラブルは、単なるセクハラやパワハラの有無のような単純な二元論ではありません。作品作りにおける演出の方向性、過酷なスケジュール、関係者の複雑な立場、さらにはそれらをコントロールすべきテレビ局側の管理責任など、多層的な背景が絡み合っています。