早めに年金を受給してそれを運用すればいい――。高金利時代を反映してまことしやかにささやかれている。その真偽と最も得する方法に迫る。

「65歳よりあとに受給」はわずか1~2%のみ

年金の受給開始年齢は65歳ですが実際は、60歳から75歳までの間を選ぶことができます。そして65歳になる前に年金を受け取り始めるのが、「繰上げ受給」で、毎年受け取る年金額は65歳受給よりも減ります。それに対して65歳よりあとに年金を受け取り始めることを「繰下げ受給」と言います。こちらは年金額が増える仕組みです。

年金額を多少減らしても元気なうちに受け取りたい。いや、ぎりぎりまで受給を遅らせて年金額を増やしたほうがいい、など人それぞれ。いつ受け取り始めるのが有利なのか、シニアにとって迷うところでもあります。加えて、ゼロ金利やマイナス金利の時代が終わった今だからこそ、早めに年金を受給し高金利を生かして運用したほうが得ではないかといった意見も聞かれるようになりました。

のちほど理由を詳しくお話ししますが、私がおすすめしているのは、65歳よりあとに受け取る繰下げ受給です。

ところが現在、圧倒的に多いのは65歳で受給を開始する人。厚生労働省「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、国民年金の場合、繰下げ受給を選ぶ人は2.2%のほか、厚生年金となると繰下げ受給が1.6%とさらに減少します。

理由としてまず、日本の年金制度に不安を抱いている人が思った以上に多いことが挙げられます。将来、制度変更や減額などがあるだろうと備えたり、「年金制度が破綻するから早くもらわないと損する」という、まことしやかな陰謀論や間違った情報などを基に、受給を急ぐ人たちです。何より、目先の生活が楽ではない人も少なくないため、なるべく早く受け取りたいという人がいるからでしょう。

本来、年金は、いつ受け取ったら得かというより、年金額で生活費などを、どう賄うかということが大切です。

基礎年金額で、受け取り開始年齢から、平均寿命までの年金総額を比べてみましょう。基本の65歳の受け取り総額と、60歳から72歳くらいまでの受け取り総額はほとんど変わりません。つまり基礎年金だと、平均寿命までは何歳で請求しても変わらないということ。ただし、繰上げは原則、新たな障害年金を請求できなくなるといったデメリットもあります。実際何歳まで生きるかは、当然のことながら誰も予測ができません。平均寿命まで生きられずに生涯年金額を減らす人もいれば、逆に平均寿命を超え長生きしたことで多くの年金を受け取る人もいます。

日本の男性で死亡者数が多い(死亡最頻値)年齢は88歳、女性が92から93歳前後ですから、平均寿命より長生きされるようです。

寿命などの不確定要素がありながら、それでも私が繰下げ受給をおすすめする理由を、ここからじっくり説明していきましょう。まず大きいのは、前述のように65歳の前に年金を受け取り始めた場合と、65歳以降に年金を受け取り始めた場合では、受給額が大きく異なることです。

65歳の誕生日より早く繰上げた場合、1カ月早めるごとに受給額が月0.4%減額されます。もし60歳からの繰上げ受給をすると、2026年度基礎年金の年額84万7300円が、64万3900円と減額です。なお、繰上げ受給を始めた年金額は、一生涯変わりません。この年額を毎年受け取ることになります。

(構成=福光 恵 図版作成=大橋昭一)