「お大事に」と「ありがとう」が言える喜び

蛯原さん自身、起業した時には想像しなかったダブルワーク。まったく違う仕事を掛け持ちするのは、どういう気分なのだろう?

「大変も楽しいも両方あるけど、楽しいほうが大きいですね。薬剤師が薬を渡すときに声をかけるとしたら、お大事にしてくださいとか、気をつけて帰ってくださいね、じゃないですか。だから、ありがとうございます!って笑顔で焼き鳥を渡して、その場でうわ、めっちゃうまいみたいなことを言ってもらえるとすごく嬉しいんですよ。焼き鳥店の仕事は楽しい刺激になってますね」

人と話したり、喜んでもらうことが好きな蛯原さんにとって、接客やコミュニケーションという点では薬剤師も焼き鳥店主も並列。そして、負けず嫌いの性格は相変わらずだからこそ、同じことをしている人が誰もいない働き方で結果を出そうとしているのだ。

取材の日、やきとり日和には続々とお客さんが訪れていた。近所に住んでいるという高齢の男性は、新聞記事を読んでずっと気になっていたそう。店頭で蛯原さんと親しげに話していた女性は、近所で開業したばかりのエステサロンのオーナーだった。

「叔母が、あい薬局で働いているんです。それで、クリスマスのとき、子どもたちにここで買ったローストチキンをくれて。それがすごくおいしくて、子どもたちが『スーパーのとはぜんぜん違う』というので、串焼きも買いにくるようになりました」

町の文化のようなお店を守る

月に一度、近くの病院に通っているという別の女性もやきとり日和の焼き鳥が好きで、いつも帰りに立ち寄るのだと教えてくれた。

「私は塩系が好みで、特になんこつがおいしいですね。ネギマもボリューミーで好き」

たくさんのお客さんに取材をして、このコメントを選んだわけではない。話を聞いたのは、この3人のみ。それだけに、蛯原さんの狙い――味のバリエーションを増やすこと、焼き鳥以外のメニューを用意すること――がしっかりニーズを掴んでいることがわかる。

すべては、徳光の焼き鳥とオーナーの徳田さんに惚れ込んだことから始まったこの挑戦。蛯原さんは「いまはもう、とにかく突っ走ってやらないと」とメガネの奥を光らせた。

「今日もきっとどこかで、徳光みたいないいお店が後継者不足で潰れていると思うんです。それは本当にもったいない。僕がしっかり結果を出せば、僕みたいなダブルワークに興味を持つ人が増えて、町の文化のようなお店を引き継いでくれるかもしれないから」

筆者撮影
これからも地元の人たちに愛される店を守っていく
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