負けず嫌いの薬剤師
薬学部の生徒は、ほぼ全員が薬剤師の資格を取る。就職先としては調剤薬局か、ドラッグストア、病院が多い。蛯原さんが、そのなかでも群を抜いて給料が安い病院で働くことにしたのは、いい出会いがあったから。
「実習先の病院にいた薬剤師の先生が、とにかくかっこよかったんですよね。病院ってドクターの立場が上で、上下関係がはっきりしているイメージがありました。でも、その先生は薬の専門家としてドクターに頼られていて、すごいなと憧れました」
研修の際、病院ではドクター、看護師など大勢の人たちとやり取りをしなければならないことがわかり、持ち前のコミュニケーション力を活かせると思ったのも大きかった。
大島の病院に就職すると、現場で必要とされる知識を得るために、どん欲に勉強した。「同期のなかでトップに立つ!」とギラギラと燃えていたのだ。生来の負けず嫌いなのである。
しかし、やがてその熱も冷めた。製薬会社やドラッグストアで働く同級生が倍ほど稼いでいることを知って、退職を決意。3年で病院を辞めた蛯原さんは、2016年、27歳で大手ドラッグストアに転職して、大島を離れた。このときは、7年後に再び大島に戻って来ることになるとは想像もしていなかった。
閉店の話題で持ち切りに
徳光とあい薬局は同じ建物のなかで軒を並べているため、徳田さんが焼き鳥を焼き始めると、薬局にも香ばしい匂いが漂ってくる。当時、週に2回、あい薬局で働いていた蛯原さんは、その匂いを嗅ぐたびに「焼き鳥、買って帰ろうかな」という気分になった。
何度かテイクアウトして徳田さんと顔見知りになり、言葉を交わすようになった2024年9月頃、薬局の同僚から「徳田さんが、来月でお店を閉める」と聞いた。
「マジ⁉」と思わず声が出た。もともと夫とともに徳光を経営していた徳田さんは、7年ほど前に夫に先立たれた後、ひとりでお店を切り盛りしていた。それでもいつも賑わっていたし、徳田さんも元気いっぱいに見えたから、意外だった。しかし、閉店の理由が高齢のためと聞いて納得するしかなかった。
当初は、常連客のひとりとして「寂しいな」と感じているだけだった。その気持ちが変わったのは、薬局での雑談でたびたび徳光の閉店が話題になり、ある日、同僚から「蛯原さんが継ぐっていうのはどう?」と冗談交じりに聞かれたのがきっかけ。その場では笑って流したものの同僚の言葉が頭から離れず、しばらくして「それもありかな」と考え始めた。
そう思えたのは、蛯原さんが「フリーランス薬剤師」だったからだ。少し時間を遡る。


