「フリーランス薬剤師」との出会い
2017年、大手ドラッグストアが経営する薬局で働き始めた蛯原さんは、相変わらずの上昇志向で勉強を続けていた。自ら志願して社内のテストに合格し、3年目に薬局の管理者に就いた。管理者になると、スタッフのマネジメントや売り上げノルマの達成を求められる。蛯原さんはやる気満々で取り組んだ。
「例えば、介護施設の薬を請け負うと100人分の薬をパックに詰める作業を夜にやらないといけなくて、残業が増えるんです。それがつらいというスタッフが多かったので、その作業をいかに効率的に終えるかを考えたり、店頭に目立つ掲示物を置いて、ひとりでも多くの患者さんが足を運んでくれるように工夫したりしていました」
管理者として、薬剤師の専門的な業務以外の仕事に初めて触れて大きなやりがいを感じた蛯原さんは、2021年、今度は介護の会社に転職する。そこでは薬局をイチから作る仕事を担当することになった。与えられた予算のなかでどの棚を買うか、どの機械を入れるか、さらにスタッフの採用まで任された。
このとき、採用難に直面する。薬剤師は全国に約32.4万人おり、そのうちのおよそ3分の2が女性だ(厚生労働省 令和4年医師・歯科医師・薬剤師統計より)。蛯原さんによると、薬局は17時以降に忙しくなる傾向があり、子育て中の女性が希望する勤務時間帯と合わないことも人手不足の主な理由だという。
蛯原さんがなんとかして薬剤師を確保しようと採用に注力していたときに頼ったのが、「フリーランス薬剤師」だ。
「自分もやってみたい」
「個人事業主として、ヨガの先生や社会保険労務士をしながら薬剤師をしている人がいたんです。僕は薬剤師として10年以上働いていたのにフリーランス薬剤師の存在を知らなかったんですけど、これはめちゃくちゃ面白いんじゃないかって思いましたね」
薬剤師が不足している地方では報酬が高騰しており、住居付きで時給4000円から5000円に達するところもある。フリーランス薬剤師のなかには1年のうち数カ月間、地方に滞在して数百万円稼ぎ、あとは自分がやりたい仕事をするという人もいるそうだ。
フリーランス薬剤師と一緒に働いているうちに、「自分もやってみたい」と思うようになった蛯原さん。薬剤師のほかに自分になにができるか、なにをしたいかと考えた時に思い浮かんだのは、それまでのキャリアで自分が「困ったこと」を解決する道だ。
「薬局と薬剤師をうまくつなぐようなビジネスをやれたらなと思いました。僕が病院で働いていた時は楽しかったけど、お金がなかった。それなら、給料が安い病院の薬剤師に副業で土日に働ける薬局を紹介したら喜ばれると思うんですよね。薬局で働いていた時は人手が足りなくて残業が多かったから、夜だけ働きたいという薬剤師をうまくつなげれば、どちらも助かるじゃないですか」

