難易度が高い焼き鳥店の仕事
焼き鳥の具体的な作業について教わったのは、12月に入ってからだった。
「僕は学生時代のアルバイトを含め、一度も調理場で働いたことがないんですよ。本当になにも知らなかったので、仕入れの方法、肉の塊の切り方、肉を串に刺す方法、タレの作り方などゼロから教わりました」
単純そうに見えた作業は、どれも難易度が高かった。柔らかい肉を同じぐらいの大きさに切るだけでも、簡単ではない。どうしてもバラツキがでるなかで、できる限り1本1本のグラム数を揃えて串に刺していく。串の先端に大きな肉があると焼いた時に見栄えがいいので、それも意識する。肉のバランスが悪いと、焼き台に置いた時にくるっと回転してしまうから要注意だ。
焼く作業も、繊細。鶏ももは何秒、レバーは何秒というマニュアルはない。1本1本、肉の厚みや形が違うから、見た目で判断するしかない。生焼けが怖くて焼き過ぎると固くなる。徳田さんに教わり始めた頃、蛯原さんは常に「これでいいですか? どう思います?」と確認していたという。不安が尽きず、徳田さんにヘルプを頼むと、週3日、手伝いに来てくれることになって、ホッとした。
迎えた2024年12月7日、徳光改め「やきとり日和」オープン。継ぐと決めてから、2カ月ほどしか経っていなかった。
徳田さんの存在感は、いまも絶大
開店から1年半。蛯原さんはいま、週4日、「やきとり日和」の焼場に立っている。スタッフは、徳田さん以外のパートアルバイトが4人。「慣れてきたから大丈夫だよね」と週2日勤務になった徳田さん以外は、蛯原さんが新たに採用したメンバーだ。
作業をローテーションしていて、自分と徳田さんのほかにもうひとりが焼き鳥を焼けるようにしているが、いまだに仕上がりは徳田さんがナンバーワン。仕込みの精度やスピードも、まるで及ばないと笑う。
「一緒に仕事をすると、やっぱり先代は40年以上、焼き鳥を焼いてきた職人なんだなと痛感します。僕が苦手な肉を串に刺す作業なんて、10倍ぐらいスピードが違うんじゃないですか」
徳田さんの存在感は、いまも絶大だ。現場で頼りになるだけではない。徳田さんが出勤する2日間は、ほかの日より明らかに売り上げが伸びる。徳光時代からの常連が、徳田さんに会いに来るのだ。
徳田さんと一緒に働き始めてから、尊敬の念は募る一方。しかしながら、新米店主は自分の色を出すことも忘れていない。
まず、手を付けたのはメニューの拡充。徳光時代になかったぼんじりや砂肝をレギュラー化した。さらに蛯原さん自身が「焼き鳥といえば塩派」だったこともあり、それまでタレのみだったところ、鶏ももとネギマの塩味も定番メニューにした。


