フリーランスとして再び大島へ
2023年9月、薬局と薬剤師をマッチングする会社「イノベセント」創業。それまで会社員として働いた経験しかなかったが、起業することに躊躇はなかった。
「薬剤師の資格を持っているからこそチャレンジしたとも言えます。薬剤師の仕事は好きでやりがいも感じているので、もし仮に失敗したら薬剤師の仕事に専念しようと思って」
薬剤師を仲介する企業はすでに多く存在する。そのなかで最も大きな差別化のポイントは、薬剤師としての実務と薬局のマネジメントや立ち上げの経験があることだ。
人手不足にも、薬局ごとに異なる理由がある。それぞれの事情を聞きだし、現場に合った人材を紹介することで、地道にクライアントを増やしていきながら、自身も薬局で働き始めた。起業してすぐに事業を軌道に乗せるのは難しい。当面の生活費を稼ぐためにも、薬剤師の仕事が必要だった。フリーランスとしてあちこちの薬局に顔を出すことで、クライアントの開拓につなげる狙いもあった。
そうして「家の近くで働ける薬局がないかな」と探していたときに見つけたのが、あい薬局の求人。先述したように、2024年6月から働き始めた蛯原さんは、その3カ月後、徳光の後を継ぐことを考えるようになった。
「フリーランスなんで、チャレンジするのも自由じゃないですか。自宅から自転車で10分の近さだし、前に働いていた病院があって知り合いが多い町でもあるので、これはチャンスかもしれない、自分にしかできないんじゃないかと思ったんですよね」
「本当なの? 大丈夫?」
徳光閉店の話を聞いたのは9月で、閉店予定は10月。「やるならやるで、すぐに言わないと時間がない」こともあり、「継ぐのもありかも」と思ってからすぐ、薬局のオーナーや同僚に「徳光を継ぎたい」と話した。すると、話が一気に動き始めた。オーナーが徳田さんや物件の大家に掛け合ってくれたのだ。
蛯原さんは9月のある日、徳光の店頭で徳田さんに「継がせてもらいたいと思っています」と伝えた。もちろん、とんとん拍子にはいかない。あい薬局のオーナーから話を聞いていたとはいえ、徳田さんにとって蛯原さんは知り合ったばかりの薬剤師だ。「本当なの? 大丈夫?」が最初のリアクションだった。
勝負はそこから。蛯原さんは何度も徳光に顔を出し、対話を重ねていった。そのうちに徳田さんも打ち解け、家賃や仕入れのコスト、売り上げなどを少しずつ共有してくれるようになった。それは経営を引き継ぐうえで必要な情報だったが、例え売り上げが想像より少なかったとしても、お店を引き継ぐのをやめるつもりはなかったという。
「もともと、売り上げがいくら以上だったらやるとは考えてなくて。実際、引き継ぐ直前まで、1日にだいたい何本ぐらい売れてるという情報しかなかったんですよ。それで試算して、まあとりあえず大丈夫かなって。徳田さんがずっとやってきたものを守っていきたいっていうのが僕のなかにはあるので」
蛯原さんが徳田さん、その娘さんとも話し合い、正式にお店を引き継ぐことに決まったのは、2024年10月に入ってから。その後、徳光は10月末に予定通りに閉店し、徳田さんは必要な設備を残しつつ、お店をきれいに片付けた。その間、蛯原さんは食品衛生管理者の資格を取得したり、新しい店舗のロゴを依頼したりと、再オープンに備えた。

