「原発の使用済み核燃料(核のゴミ)を最終処分する場所は世界のどこにもなく、その状態で原発を動かし核のゴミを増やすのはあまりに無責任。日本は原発をゼロにすべき」――小泉純一郎元首相の主張はシンプルだが本質を突いている。

ケンカ上手で並はずれた発信力、突破力を持つ小泉氏が相手とあっては、原発推進派もやりにくい。安倍晋三首相も「小泉発言こそ無責任」と形ばかりの反論をしたが世論の共感は得られず、「このまま黙殺して、やり過ごすしかない」(官邸筋)というのが現状だ。

そこで首相に代わってケンカを買って出ているのが、元通産官僚の細田博之自民党幹事長代行(元官房長官)だ。

「『パンドラの約束』という映画が米国で上映され、見終わると半分以上が“原子力発電はどうしても人類に必要だ”と納得するらしい。日本でも来春に上映されるようだが自民党で上映してはどうか」

11月下旬、自民党の原発推進派の集まり「自民党電力安定供給推進議連」の会合で、議連会長でもある細田氏はそう提案した。

電力会社の業界団体「電気事業連合会」がホームページに掲載したこの映画の紹介によると、この映画の監督は「かつては反原子力の活動をしていたが、エネルギー・環境問題を理解するうちに、(CO2を出さない)原子力発電を推進することが1番効果的な解決方法だとの主張に変わった」という。

「CO2の排出は資源を枯渇させ、地球温暖化に恐るべき悪影響を及ぼす。こんな犯罪的な行為をしてはいけない」

会合で細田氏はそう前置きして「化石燃料の輸入を続けることは人類と日本経済に対する犯罪で、短絡的な小泉さんの発言はどう考えても正しくない」と切り捨てる一方、「党内には原発は絶対ダメという人もいる。それでは日本経済はダメになるのに理解していない」と党内の脱原発グループの動きを強く牽制した。

「首相は運転停止中の原発を再稼働するタイミングを見計らっているが、小泉発言で再稼働のハードルが高くなることや、自民党内の脱原発グループが安倍政権批判で動き出すことを警戒している」と全国紙の自民党担当記者は語る。