2013年12月13日、北朝鮮・金正恩第一書記の後見人でもあった張成沢氏が銃殺された。通常は小銃で行われるところを、国民への宣伝のために機関銃が使用された。張氏は11年12月17日に金正日総書記が死去した直後から、若い正恩氏を支える形で事実上のナンバー2となった。正恩氏の意向に異議を唱えることもあったとされ、正恩氏はその権力の肥大化を恐れていたとみられる。
北朝鮮では金日成主席、金正日総書記の時代も、権力を持ちすぎた者は失脚・粛清されてきた。正恩氏のもう1人の後見人といわれた李英浩総参謀長も12年7月、病気を理由に全役職から解かれている。が、こうしたことが北朝鮮の発展を大きく阻害してきた。独裁者に意見する大物がいなくなってしまうのだ。ブッシュ政権時代に対北朝鮮政策に携わったジョージタウン大学のビクター・チャ教授はCNNテレビで「これほど恐ろしく劇的なことは、金日成主席が権力を固めようとしていた50年代以来だ」と指摘。
「(金正恩氏に)権力が安定的に移譲されたとは言えず、体制内で大きな内部抗争が起きている」とした。
今後はその正恩氏を崔竜海・軍総政治局長が事実上操ることになりそうだ。崔竜海派が優先的に物資の供給を受けられるようになる半面、張成沢派は配給停止など文字通り冷や飯を食うことになるだろう。食糧など生活必需品が不足する北朝鮮ならではの権力闘争の図式である。
核開発や弾道ミサイル発射実験が加速するという分析もあるが、対米交渉のカードづくりのため、むしろ緩やかに進められるだろう。核兵器は完成したか否かより「持っているかもしれない」と他者に思わせることが重要であり、かつ崔竜海は強硬派とはいえ、あくまで軍人の思想を取り締まる部署の長であり部隊の指揮はできない。ただ、階級に関係なく軍人を逮捕できるため、軍トップの総参謀長といえどうかつには楯突けない。
そんな中でカリスマ性も実績も何もない正恩氏は、最後に「失政」の全責任を負わせるため今後も形式上「生かされ」続けるだろう。そして何もかも立ち行かなくなったときは、張成沢氏同様の銃殺という結末も否定できない。もっとも今は、配給制度が廃止され疲れ切った国民は雲の上の権力闘争になど無関心だろう。何かが起きそうだとあおるのは外国メディアだけだ。