みずほ銀行による暴力団への融資問題が発覚してから、暴力団排除の動きがさらに高まる金融業界。そんな中、自動車保険を扱う損害保険会社の間でも、約款の中に暴排条項を盛り込む動きが加速している。
あるプロ代理店はこう明かす。
「暴力団排除条例が全国で施行された2年前頃から、すでにチェックがかなり厳しくなっていたのは事実です。我々がそうとは知らず契約をとってきても、会社が把握しているブラックリストに引っ掛かると、容赦なく契約解除。たとえ組員をやめていても、5年以内ならまずアウト、という厳しさです」
確かに、自動車保険が暴力団の資金源の一部になっていたことは事実だ。仲間と共謀した偽装事故や詐病による保険金詐欺など、損保業界がその対策に苦慮してきた長い歴史がある。しかし、自動車保険における暴力団排除の動きは、無保険で走り回る暴力団員を増やすことにつながり、結果的に一般市民に深刻な影響を与えるということも認識しておく必要があるだろう。
たとえば、交通事故で重度の後遺障害を負った場合、生涯にわたる介護費用などがかさんでくるため、損害額は2億円を超すことも稀ではない。
自賠責保険の上限は、重度障害の場合で4000万円。加害者が無制限の対人保険に加入していればオーバー分は任意保険から支払われるが、相手が無保険だったら自賠責だけではまったく足りない。たとえ裁判を起こして高額判決を勝ち取ったところで、加害者側に支払い能力がなければ、被害者は泣き寝入りするしかないのだ。また、自賠責は対人のみの保険なので、車やモノを壊されても保険金は一切支払われない。
暴力団排除の動きじたいを否定するものではないが、損保会社は被害者救済という観点から、せめて対人や対物保険といった賠償保険だけでも引き受けるべきではないか。一方、こうした状況の中、一般ドライバーは万一に備えて、搭乗者保険や人身傷害保険、無保険車傷害保険、車両保険など「わが身を守る保険」の充実を図っておく必要があるだろう。被害者は加害者を選べないのだ。