今春、オバマ米大統領が日本を公式訪問する見込みだ。大統領の来日は2010年、横浜で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席して以来。最大の注目点は、昨年末の安倍晋三首相の靖国神社参拝を機に広がった日米の溝をどう埋めるかだ。
「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに、米国政府は失望している」――昨年12月26日の安倍首相の靖国参拝に対し、米政府は「失望」という表現を盛り込んだ異例の声明を発表。翌27日に予定されていた小野寺五典防衛相とヘーゲル国防長官の電話会談もキャンセルし、首相の行動に不快感を示した。首相官邸担当記者が語る。
「政府要人は“米国が声明まで出すとは思わなかった。米国には参拝前にキチンと説明したつもりだったが……”と米国の予想外の反応に戸惑っていた。一方で、この要人は“オバマ政権だからなあ”と、中国を刺激することを極端に恐れるオバマ政権の姿勢に不満を漏らしていた」
一方、中国・韓国は予想通り猛反発。中国は王毅外相が日本包囲網の形成を意図してロシア、韓国の外相と靖国参拝問題で電話会談。韓国の朴槿恵大統領も「人類の良心に背く国は一流国家とは呼べない」と非難し、韓国国会の外交統一委員会も非難決議を採択。また、程永華駐日中国大使が毎日新聞に“『不戦の誓い』は場所が違う”と題する安倍批判の論文を寄稿し、日本の世論に訴えた。
首相はなぜ靖国参拝を強行したのか。
「一昨年、首相は第1次安倍内閣で靖国参拝できなかったことについて“痛恨の極み”と発言した手前、任期中に参拝せざるをえなくなった。でも通常国会中の参拝だと野党に追及されて国会審議が止まる。その後だとオバマ来日と10月に北京で開かれるAPECが控えている。残るは昨年末しかなかった」(首相周辺)
12月28・29日実施の共同通信社の世論調査では安倍内閣支持率は55%。1週間前に比べほぼ横ばい。世論は靖国参拝を冷静に受け止めているようだ。一方の米国。外務省関係者によると「国務省は安倍批判が強いが、国防総省は安倍首相に理解を示しつつある」という。靖国参拝後、沖縄県の仲井真弘多知事が普天間基地移設に向けた政府の埋め立て申請を承認したことが評価されたという。日米の溝はどこまで埋まるか。