日本政府が昨年9月、尖閣諸島を国有化して1年あまりが経ち、経済面でも停滞が続く日中関係を改善しようと、日中両国の経済界が動き出した。中国を代表する大手企業10社の首脳が来日し、9月25日に菅義偉官房長官や日本の経済界首脳と相次ぎ会談、企業交流を通じた日中経済関係の改善を訴えた。日本側も、日中経済協会(会長・張富士夫トヨタ自動車名誉会長)が11月18日から7日間の日程で、企業首脳ら約100人を率い訪中する。昨年は尖閣問題の深刻化から9月の派遣予定を今年3月に延期した経緯があっただけに、日中経済関係ににわかに雪解けムードが漂い出したかのようだ。
「経団連に関係改善の力添えをいただきたい」――中国の政府系金融グループ、中信集団(CITIC)董事長(会長)で中国側代表の常振明氏は、米倉弘昌・経団連会長(住友化学会長)との会談の冒頭、こう切り出した。会談では米倉会長が環境問題などへの協力を提案、両国関係の早期改善の重要性を確認した。一連の会談は常氏の低姿勢な挨拶でもうかがえるように、中国側が呼びかけ、長谷川閑史・経済同友会代表幹事(武田薬品工業社長)の特別顧問である青木昌彦・米スタンフォード大名誉教授が調整に当たった。
中国の大手企業首脳が大挙して来日するのは異例で、尖閣問題を背景に政治、経済の両面で関係が悪化する「政冷経冷」に、中国経済界が危機感を抱いていることを滲ませた。中国国内では経済減速から特に地方政府に日本企業の投資への期待が高く、中国指導部への日中関係改善に向けた要望も強まっている。企業団代表の常氏は中国共産党幹部で、国有銀行の中国建設銀行の頭取も務めた実力者だ。その意味で、日本側は今回の企業団の来日を、もっぱら中国指導部の意向が色濃く反映されたと受け止めている。
日本の経済界にとっても、世界第2位、3位の経済大国である両国の経済関係が冷え切ったままでは、大きなビジネス機会をみすみす失うという焦燥感も強い。
しかし、安倍晋三政権の中国政策に対する中国指導部の警戒感は緩まる気配が薄く、かつての「政冷経熱」の関係に再びたどり着くにも一筋縄ではいかない。このため日本の経済界には、経済関係の改善には、「中国との様々なルートを通じた地道な交流を続けるよりない」との指摘が支配的で、両国経済関係が一気に雪解けに向かうかは依然不透明だ。