本音はみんな「失敗したくない」
「失敗を恐れるな」
「早く失敗して、早く学ぼう」
ビジネスの現場で、こうした言葉を聞かない日はない。特にDXやAI導入といった前例のないプロジェクトの現場では、この「失敗推奨」の声を聞かない日はないだろう。シリコンバレー発の「Fail Fast(早く失敗せよ)」という標語は、今や日本の伝統的な企業でも、イノベーションの合言葉として定着しつつある。
しかし、現場に身を置く私たちの本音はどうだろうか。会議室で「どんどん挑戦しよう」というメッセージに頷きながらも、腹の底ではこう叫んでいるはずだ。
「そうは言っても、失敗はしたくない」
「評価が下がるのは嫌だ」
「恥をかきたくない」
組織からの「失敗しろ」という要請と、個人の「失敗したくない」という生存本能。この板挟みに苦しんでいるのが、現代の多くのビジネスパーソンの実情ではないだろうか。
このジレンマからどう逃れるか。そのヒントは、エイミー・エドモンドソン教授の著書『失敗できる組織(原題:Right Kind of Wrong)』にある。
私たちが失敗のジレンマに落ちてしまう1つの理由は、「失敗」という言葉の解像度が粗く、すべての「うまくいかなかったこと」を十把一絡げに「失敗」というラベリングをしてしまっている点にある。
だからこそ、エドモンドソンは失敗を「基本的失敗」、「複雑な失敗」、「賢い失敗」という3つに分類することを提案する。「失敗」と雑に語って無責任に推奨するのではなく、まずはその違いを理解し、無くすべき失敗と推し進めるべき失敗を切り分けていこう。そういう趣旨だ。
「減らすべき失敗」と「するべき失敗」
では3つの分類とは何か? その中身を見ていこう。
最初の「基本的失敗」とは、不注意やスキル不足によるミスによるものだ。確認を怠ってメールの誤送信をしてしまうことや、ぼうっとしながら車を運転していて事故を起こしてしまうなどのケースだ。いわゆる「ザ・失敗」であり、このカテゴリーはすぐに対策を考え減らしていくべきものだ。
次の「複雑な失敗」は、予測不能な要因が複雑に絡み合って起こる事故のことだ。チェックシステムがあるにも関わらず、不幸な偶然が重なってしまって「まさか」という事態に陥ってしまう類のもの。
飛行機の墜落事故などは、大抵はこの手の複雑性が背景にある。人為的なミスが何度か重なってしまうのだ。ここには構造的な要因があることが多く、単純な対策を取っても解決することは難しい。過去にあった「複雑な失敗」をケースに、構造的に課題を学習する必要がある。
そしてこの3つのカテゴリーの中で最も重要なのが、最後の「賢い失敗」だ。これは全く新たなチャレンジをすることによって確実に発生する「想定通りにいかなかったネガティブなこと」だ。
やったことがないのだから想定通りいかないのは当然であり、これは非難の対象にはならない。「減らせること」でも「減らすべきこと」でもない。
習いたての自転車を想像するとわかるだろう。転ぶことは避けたいが、「受け身の技術」など、実際に転ばないと習得できないことはたくさんあるからだ。
ここはまさに「Fail Fast」の領域と言える。



