中国は11月23日、新たに設定した防空識別圏(ADIZ)を発表。この空域を飛行する航空機を中国側に通告すること、双方向の無線通信を維持すること、機体に国籍を明示することを求めた。同圏は沖縄県の尖閣諸島を含む東シナ海上空の広い範囲に及び、識別に協力しなかったり指示に従わない航空機には「防御的な緊急措置」を取るとしている。

ADIZとは各国が領空の外側に設ける「緩衝帯」。その空域を飛行する場合は事前に飛行計画を当該国に提出しなければならない。それがない航空機が飛行した場合は国籍不明機と見なされ、アラート待機している戦闘機が緊急発進し国籍、機種などを確認、写真撮影を行う。

軍事情報誌「IHSジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」のジェームズ・ハーディー氏は、「ADIZは一方的に設定されるため実際には法的根拠がなく、近隣諸国との交渉にも基づいていない。非友好的な航空機の接近を阻止するための早期警戒が目的とされる」と言う。要はADIZを設定することそのものには何の問題もない。韓国のADIZなどは平壌上空まで含まれているくらいだ。飛行計画を事前に中国側に提出すれば何の問題も生じない。むしろ、これまで設定していなかったのが不思議なくらいだ。中国は「緊急措置」の中身を明らかにはしていないが、一部の専門家が言うような、自衛隊機と交戦に発展するような事態に発展することはありえない。追尾や針路妨害、威嚇射撃程度であろう。

注目すべきは29日、米軍機2機が通告なしにこのADIZ圏内を飛行、これに中国側の空軍機が緊急発進を行ったことだ。中国では洋上防空は海軍機、陸上の防空は空軍機と任務を分担しており、米軍偵察機が中国領空に接近すると海軍機が緊急発進し追尾を行う。海軍機ではなく空軍機が洋上に進出したということは、ADIZを単なる緩衝帯ではなく「中国領」と位置付けていることを示唆している。つまり、沖縄トラフまでの大陸棚は「中国領」だと強調しているのだ。飛行計画の提出云々の問題ではない。

中国はすでに東シナ海の日中中間線付近でガス・石油を採掘し海上権益を確保、海軍の強化で東シナ海を自国の海とし、今度は東シナ海の空を影響下に置こうとしている。日中中間線を超えたADIZ設定はその布石だろう。実にしたたかな戦略といえる。

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