財界の役割が変わってきた。そのことを実感するイベントが11月、東京都内で立て続けに開かれた。経済3団体の1つ、経済同友会の長谷川閑史代表幹事(武田薬品工業社長)が登壇し、大企業役員や起業家らと語り合った「G1経営者会議」と、同友会が主催した「ベンチャー創造フォーラム」だ。

経済3団体のなかでも経営者が個人の資格で加入する同友会は、もともと大胆な政策提言を行うのが持ち味。2011年4月に就任した長谷川代表幹事は、さらに踏み込んで「行動する同友会」を掲げ、提言の実現や、会員個々の行動を奨励する方針を打ち出した。目玉の1つが、プロジェクトチームから格上げされた「ベンチャー創造委員会」だ。

11月8日のベンチャー創造フォーラムで長谷川代表幹事は「提言の段階は終わった。今後は実行し、実績を残してほしい」と堀義人委員長(グロービス経営大学院学長)にハッパをかけた。この日議論が交わされたのは、ベンチャー企業への投資資金を所得控除の対象とするエンジェル税制を使いやすくすることや、政府調達の要件を緩和しベンチャーが参入しやすくするにはどうするか、といった課題について。

一方、11月4日開催のG1経営者会議。若手の起業家や政治家、官僚、学者らが集う「G1サミット」が母体になっているだけに、パネリストには長谷川氏をはじめとした大企業経営者のほか、高島宏平オイシックス社長や石黒不二代ネットイヤーグループ社長、森川亮LINE社長といったベンチャー経営者が数多く顔をそろえ、立場や価値観を超えて活発な意見交換を行った。

かつて日本の財界は、共産主義の脅威から資本主義体制を守るため、資金提供と政策提言によって政権に対して大きな影響力を行使した。土光敏夫ら経団連会長が「財界総理」と呼ばれたのはそのためだ。しかし冷戦終結後のいま、財界団体が目指すべきは、グローバル化が進む世界経済で日本人や日本企業がいかに生き残るか、そのためにどこをどのように強くするかをスピーディに検討し実行することだ。「行動する同友会」の取り組みは、その意味で大いに注目に値する。

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