これだけ働いて行列ができても手元に残るのはわずか
だが、問題は残る。
「こんなに働いて、これだけしか残らないんだ」
有香さんの率直な実感だ。ラーメン屋の現実。高い原価率、重い労働、薄い利益。かつて見てきた光景と、今の自分が重なる。
それでも彼女は続けている。なぜか。
「すごいと思います。これだけ美味しいものを作っていろんな人に評価されて」
そう言って、貴志さんのラーメンを評価する。毎日食べているからこそわかる、本物の味。厳しい修業を乗り越えた技術と、愚直なまでの探究心。その積み重ねを、誰より近くで見てきたからこそ出る言葉だ。
一方の貴志さんも言う。
「とてもじゃないけど彼女がいなかったらオープンできていません」
ぶつかり合いながらも、互いを認めている。
「未完成の店」だからこそ人が訪れる
店には3人の娘たちも顔を出す。学校帰りに立ち寄り、時にはテーブルを拭いたりラーメンをお客の元まで運んだりしてサポートする。店じまい後に家族そろってまかないを食べるのはお決まりの風景だ。かつてラーメン屋の娘として寂しさを抱えた有香さんの過去とどこか重なりながらも、今は確かに家族の店になりつつある。
喧嘩は絶えない。理想と現実のズレも大きい。それでも、二人は同じ場所に立ち続けている。
「妻を楽にするには、人を雇うしかない」
そんな現実的な解決策を語りながらも、まだ余裕はない。ただ走り続けるしかない段階だ。
「RUSTIC NOODLES」は、完成された店ではない。むしろ未完成で、常に揺れ動いている。だが、その不安定さこそが、この店の魅力でもある。ラーメンは確かに美味い。しかしそれ以上に、この店には人間の熱がある。
ぶつかり、壊れかけ、それでも続いていく夫婦の物語。その先にあるものは、まだ誰にもわからない。だが一つだけ確かなのは、この店がただの一杯では終わらないということだ。


