山口智史(コカ・コーラウエストラグビー部監督)
ほのぼのとした風情を漂わせる。今季、ラグビーのトップリーグ(TL)に復帰したコカ・コーラウエストの新監督、山口智史はよく、穏やかな口調で選手に言うのだ。
「準備は大切だぞ。しっかり準備をして、エンジョイだよ。心を含めて、いい準備をしていないと、あとで後悔するし、いいパフォーマンスができないぞ」
山口は怪我のコワさを知っている。悪夢は19歳の春だった。1999年4月、関東学院大2年生だった。場所が、横浜の三ツ沢球技場。23歳以下日本代表のナンバー8として、ニュージーランド学生代表(NZU)と戦っている時、首を強打して「頸椎脱臼」の大けがを負った。
山口が思い出す。
「横浜の試合には出ない予定だったので、気持ちが緩んでいたんです。準備不足でした」
3カ月間入院し、リハビリに取り組んだ。1年間、ラグビーはできなかった。医者は、「同じ個所を再び痛めたら命の保証はない」と復帰に消極的だった。
「ラグビーをまたやるかどうか、すごく迷いました。でも、こう、思ったんです。これは、人間、いつ死ぬかわからないな。じゃ、自分が一番楽しいことをやろうって。それがラグビーだったんです」
大怪我を境に「準備」と「エンジョイ」にこだわりだした。ウォーミングアップにも必死で取り組むようになった。試合の前日には酒は飲まない。次の日の練習に向けてしっかり準備をする。つまりは自己管理を徹底するようになった。
4年生の主将時、大学日本一に就いた。社会人ではコカ・コーラウエストで8年間、プレーした。3年前、波乱万丈の現役生活を終え、指導者の道に入った。
モットーが「エンジョイ」である。「楽しむ。でもラクとはちょっと違う。勝たないと楽しくない。仕事だって、結果がでないと楽しくない。そのためには一所懸命にやらなくちゃ。ラグビーも一所懸命じゃないと、負けて涙もでない」
気持ちが入ると、つい笑ってしまうタイプである。仕事のプレゼンでも大事なところで、ちょっと笑いがこぼれる。
「どうせ1回しかチャンスがないからと集中すると、一所懸命やろうと、うれしくなってしまうんです」
TLに復帰したチームの今季のスローガンが「Next Action!」である。プレーで言えば、動き出しのはやさ、次のプレーへのはやさを意図したものだ。次の展開に素早く移る。応用範囲は広いだろう。
今季のチームの目標がまずは「ベスト8」。佐賀出身の34歳。夢は? と聞けば、山口は顔をくしゃくしゃにした。
「日本一です。エンジョイで日本一!」