田中史朗(ラグビー日本代表スクラムハーフ)
166センチのからだは闘志の塊である。6月15日の日本代表×ウェールズ戦。開始直後、日本がPKをもらった際、ボールを渡さない相手に食ってかかった。
「僕はボールを早くほしかっただけです」と、SH田中史朗は説明する。
「僕はけんかは嫌いです。ただ相手がひきょうなことをやってきたら、しっかりファイトしないといけません。日本のチームには、やさしい人が多いので……。これからの日本は、そんな激しさも必要なんです」
ほぼ満員の約2万1000人で埋まったスタンドの声援を背に、強豪ウェールズに挑み、23-8で完勝した。ウェールズ撃破は13度目の対戦で初めてで、「ホームユニオン」と呼ばれるラグビー伝統国・協会からの勝利は、89年のスコットランド戦以来2度目の快挙となった。
はっきり言って、相手は主力抜きの「1.5軍」の編成だった。それでも勝ちは勝ちである。勝利のあと、田中は大粒の涙をぽろぽろっとこぼした。
「やっとで応援してくれた方々に恩返しができた気分です。歓声が気持ちよかったし、うれしかったし、感謝の気持ちもあって……。つい感極まってしまいました」
京都府生まれの28歳。京都・伏見工業高校、京都産業大を経て、パナソニック(元三洋電機)に入った。2008年に日本代表となり、11年ワールドカップ(W杯)ニュージーランド(NZ)大会に出場した。
ことしから、NZ、豪州、南アフリカの強豪クラブで争う世界最高峰のプロリーグ「スーパーラグビー」に挑戦している。堀江翔太とともに日本人としては初挑戦で、所属がNZのハイランダーズ。「むこう(NZ)では、コミュニケーションをとることを意識するようになりました」という。
球際のプレー、足腰が強くなった。判断スピード、瞬発力もアップした。スピーディー、かつ力強い球さばきから、NZ代表オールブラックスの名SH、シャスティン・マーシャルに重ね合わせる人も多い。
謙虚な性格。愛嬌がある。ウェールズからの金星にも浮かれることはない。
「まだ日本ラグビーのスタートです。これからどう変わっていくのか。この勝利が自信になると思うけれど、もっともっと努力して、まず個々が強くなっていかないといけない。これからも、できるだけ、ラグビーに関わっていきたい。ずっと代表をやっていきたい」
目標は2015年W杯、さらには日本開催の19年W杯である。夢が「世界トップ10入り」。小さなSHの献身プレーが、ジャパンをテンポ良く、リードする。