瀬川智広(ラグビー7人制日本男子代表ヘッドコーチ)
春の嵐が吹き荒れた3月某日。7人制ラグビーの日本代表男子の練習が、東京・辰巳の森ラグビー場で行われた。小柄な瀬川智広ヘッドコーチ(HC)は笛を吹きながら、駆けまわる。両手をたたき、声を張り上げる。
「サポートだ!」
「ナイス!ナイス!」
いつも全力投球。HCとして、親身かつ地道にチーム強化に取り組んできた。試合時間の短い7人制ラグビーならではか、練習でもメリハリを意識している。
「セブンズ(7人制ラグビー)で大事なことは“常に楽しく”です。厳しいことを楽しくやって、チームになっていくのが一番だと思います。明るく、楽しく、元気よく、それで最後に勝つ。“やるときはやるぞ”という集団になればいいんです」
努力の人である。兵庫県出身。ポジションがスクラムハーフ。明石西高校から大阪体育大学に進み、「誰よりも一所懸命に練習をやる姿勢」(坂田好弘監督、当時)が評価されて2年でレギュラーに抜てきされた。
卒業後、名門・東芝に進み、選手として日本選手権3連覇を果たした。引退後、コーチを経て、2007年、東芝の監督に就任した。自身の経験から、「一所懸命にやる選手を信じて見守ること」を実践してきた。
昨年4月、7人制ラグビーの日本代表男子のHCに就いた。トップリーグのある15人制ラグビーと比べると、7人制ラグビーの強化体制は脆弱だった。だが2016年リオデジャネイロ五輪で正式競技になったこともあり、瀬川HCは丁寧に粘り強く周囲を説得してきた。「ラグビー界全体で同じ方向を向けば、もっと代表が強くなる可能性があります」と期待する。
目標が「オリンピック金メダル」。そのためには長い目でみた若手選手の発掘・育成、企業チームのサポートが必要だろう。香港セブンズ(22日~24日)、東京セブンズ(30日、31日)と大事な国際大会が続く。
「このシリーズが世界への第一歩となる」と、瀬川HCは言う。コンセプトは「走り勝つ」こと。「でも、ただ単純に走り合いをすれば、世界のスピードランナーに勝てないと思います。だから倒れても早く立ち上がったり、ポジションについたり。短い距離の瞬間スピードと継続プレーで勝負したい」
42歳の瀬川HCはチームを「ファミリー」と表現する。7人制ラグビーに悲壮感は似合わない。明るく、楽しく、元気よく、セブンズ・ファミリーは五輪ロードを走るのだ。