真壁伸弥(サントリーラグビー部主将)
タフガイである。ラグビー日本選手権決勝。サントリーの真壁伸弥主将は、右足の負傷を抱えながら強行出場し、密集で暴れまわった。が、再び患部を痛めた。途中で右足を引きずりながら、リザーブ選手と交代した。
あとはベンチから大声でチームメイトに声援を送り続けた。ついにノーサイド。サントリーが史上初の公式戦17戦全勝で、トップリーグと合わせ2年連続の2冠を達成した。
「うれしい以外の言葉が見つからない」と、主将は言葉に実感を込めた。
「1年間やってきたことをしっかりカタチにできました。試合中、また(患部を)ピリッとやってしまって、これ以上プレーするとチームに迷惑をかけると……。これまで迷惑をかけてきたのに、またかけてしまうと思ってベンチに下がりました。うちは誰が出てもサントリーのラグビーができますので」
試合後の会見。朴訥とした語り、生真面目さが全身から漂ってくる。隣の大久保直弥監督がマイクをもぎ取り、珍しく笑顔で主将の労をねぎらった。「よくぞ1年間、チームを引っ張ってくれた。“地位が人をつくる”とはよく言ったものです」と。
仙台市出身の25歳。192センチ、115キロ。ポジションがロック。仙台工高でラグビーを始め、中央大学に進んだ。U19(19歳以下)日本代表の主将としても活躍し、日本協会の育成プロジェクトでニュージーランドにラグビー留学したこともある。
2009年サントリーに入り、日本代表にも選ばれた。昨季途中、監督となる大久保コーチから主将任命を受けた。まだチーム4年目。青天の霹靂(へきれき)だった。
悩み続けたシーズンだった。どちらかといえば、言葉ではなく、プレーでリードするタイプである。チームの進化と共に、真壁主将も人間として成長した。
記者から「チームの進化は?」と聞かれると、少し考え込んだ。
「全員の意識が高くなりました。昨日の自分に勝とうという意識があると思います。1試合1試合にフォーカスして、結果、全勝できました。2つのトロフィー(トップリーグと日本選手権)を誇りに感じます」
また大久保監督がマイクをもぎとる。「真壁の受け答えは進化しています」と茶化し、記者の爆笑を誘った。
今季のチームスローガンは「HUNGRY」だった。真壁はその英文字が書かれた黒色のTシャツを着ていた。「満腹になりましたか?」と聞かれると、表情を引き締めた。
「満腹感は、ないです。試合の最後、フィールドに立っていなかったし、(相手に)トライもとられた。まだまだやることがいっぱいあると思います」
まだチームも真壁主将も発展途上なのだ。来季のチーム連覇、さらには日本代表としてのチャレンジが待っている。