和田康二(慶應義塾大学ラグビー部新監督)
日本ラグビーのルーツ校、日吉の慶大ラグビーグラウンドを訪ねると、春の陽射しの下、100人余の部員たちが楕円球を追いかけていた。和田康二・新監督もぐるぐると動き回る。活力があふれる。時には部員と一緒に腕立て伏せをする。
34歳はほがらかな表情で説明する。
「やっぱり練習に取り組む態度は大事です。明るく厳しい練習がいいですね。グラウンドでは、嫌な顔、つらい顔は禁止にしようかなと思っています」
ソフトな語り口、聡明で真面目そうな目、つい好感を抱く。茨城県出身。慶大100周年の1999~2000年シーズンで日本一となった時のスタンドオフ。4年生時は主将を務めた。
卒業後、シビアなゴールドマンサックス証券に入社し、ばりばりの営業マンとして活躍していた。2001年度から6年間、慶大ラグビー部のコーチとなり、3年前からは慶応高校ラグビー部のコーチを務めていた。この度、同証券からの“出向”というカタチで監督としてフルタイムで慶大ラグビー部を指導することになった。
「12年間、サラリーマンをやっていたのは強みでもあります。誰にでも聞きにいけるじゃないですか。監督は、いろんな方にお願いして、チームとして力を結集するのが重要なんだなということが分かりました」
新チームがスタートした直後、和田監督は部員全員と、ひとり20分~30分ずつの個人面談を実施した。「部に何らかのカタチでプラスになっているか?」と問いかけた。
「最後に試合に出るのは(先発メンバーが)15人だけです。ほかの部員は試合では貢献できない。でも、部員である以上、何らかのカタチで部に貢献してしかるべきだと思います。逆にいえば、全員が部にプラスのことをし続けることができれば、それがぜんぶ結集したら、すごい力になるんです」
慶大は昨季、関東大学ラグビー対抗戦で5位となり、全国大学選手権ではベスト4に進出できなかった。目標はもちろん王座奪回、最低でも正月越えの大学選手権ベスト4を目指す。まずは個々の力量、チームの戦力、戦い方を見極めていく。
「鈍感力がすごい」と周りからは言われる。慶大といえば「魂のタックル」が伝統だが、勝つためには攻撃力もアップしなければならない。要は攻守のバランス、適材適所の起用か。慶応の強みは、と問えば、「かしこく戦う。スマートさです」と漏らす。柔和な顔には“タイガー軍団”復活の自信が満ちていた。