就任1カ月で100を超える大統領令、公約の5割に着手
アメリカのドナルド・トランプ大統領が就任して1カ月がたった。100を超える大統領令を発し、公約の5割に着手するなど、そのスピード重視の姿勢は筆者が就任前から予想してきたものだ。なかでも実業家のイーロン・マスク氏をトップに据えたDOGE(Department Of Government Efficiency=政府効率化省)による官僚機構への管理の強化は、突然のUSAID(United States Agency for International Development=アメリカ国際開発庁)の閉鎖の報道などにより、世界に衝撃を与えている。
トランプ大統領はアメリカ時間で2月11日に、DOGEを率いるイーロン・マスク氏を大統領執務室に招いて2人で記者会見を行い、その模様を動画配信した。トランプ大統領はその中でイーロン・マスク氏を「非常に優秀で実際に多大な実績を残している」と褒め、2人の関係が現時点では良好であることを窺わせた。筆者は2024年12月の記事〈イーロン・マスク氏の「真の才能」を見抜いている…トランプ新大統領が「ビジネスの鬼才」を起用する本当の目的〉において、2人の蜜月について指摘したが、実際に共働を始めてからは、より深く関係性を強めていると見られる。
トランプ政権の政策とマスク氏の主張
トランプ政権の政策には、イーロン・マスク氏の価値観がかなり投影されている。
マスク氏がお気に入りの仮想通貨「ドージコイン」から名付けたとされる「DOGE」という名称だけではない。トランプ政権が掲げる在宅勤務の禁止も、マスク氏の考えと一致する。ツイッター(現・X)買収時も最初にリモートワークを禁止し、週40時間以上オフィスで働くように求めた。マスク氏自身が誰よりもハードワーカーであり、「オフィスで仕事をしたほうが生産性が高い」と考えている。
マスク氏はDEI(Diversity、Equity、Inclusion=多様性、公平性、包括性)施策に反対の立場であり、トランプ大統領も「性別は男性と女性のみとする」と就任演説で明言した。これは「人材は能力によって選抜されるべきだ」という価値観の裏返しと考えられる。こうした考え方は、DEI推進事業を手がけてきたUSAIDへのアクションや、教育省のDEI関連助成金1億100万ドル(約160億円)分の打ち切りなどにも表れている。
また、トランプ政権では、バイデン前政権が行ってきたSNSの偽情報対策を「政府による言論の検閲」と位置づけ、大幅な方針転換を図っている。マスク氏がツイッター(現・X)を買収したのも、もともとが表現の自由のためであり、「偽情報であっても表現の自由が保証されるべきだ」という価値観はトランプ大統領とも通底している。