前代未聞の形で決裂したトランプ大統領とゼレンスキー大統領の首脳会談から一転、ウクライナは米国が提案した「30日間の停戦」を受け入れた。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「トランプ氏は『感情で怒る』のではなく、時として『計算で怒る』人物だ。彼の交渉戦略は単なる強硬姿勢ではなく、『決裂すらも交渉の一部とする高度な戦略的判断』に基づいている」という――。
2025年2月28日、米ワシントンのホワイトハウスで会談を前にウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領に挨拶するドナルド・トランプ米大統領。
写真=SPUTNIK/時事通信フォト
2025年2月28日、米ワシントンのホワイトハウスで会談を前にウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領に挨拶するドナルド・トランプ米大統領。

「感情で怒る」のではなく「計算で怒る」

ロシアによるウクライナ侵攻開始から3年となる2025年2月、アメリカのトランプ大統領が停戦に向けて動いた。いきなりウクライナの頭越しにロシアのプーチン大統領と電話会談を行ったかと思えば、ウクライナのゼレンスキー大統領を「選挙をしない独裁者だ」と批判。ホワイトハウスで行われたゼレンスキー氏との首脳会談は、テレビカメラの前で激しい口論を繰り広げた末に、物別れに終わった。

しかし、常識外れにも見えるトランプ氏の言動は、時として計算に基づいた「ディール(取引)」の一環である。

こうしたトランプ氏の言動を読み解くには、まず彼の「戦略目標」を理解する必要がある。

それは、停戦をまとめること。そして、それは必ずしも日本や欧州が望んでいるようなウクライナに優位な条件というわけではない。トランプ大統領はこのために、ゼレンスキー大統領の信用を失わせ、より現実的な路線となることを狙っている。

首脳会談における交渉決裂も、それが目的だと考えられる。トランプ氏は「感情で怒る」のではなく、「計算で怒る」。一見、怒りに見えるが、実は相手を揺さぶるための演出である。ゼレンスキー氏の譲歩を促すために「交渉の場を荒らす」のは彼の常套手段の一つだ。

結果として、3月2日に行われたロンドンでのサミットでは、参加国の危機感は高まり、ゼレンスキー氏がトランプ氏と関係修復しなければならないこと、自分たちも相応の負担をしなければならないとの認識が一気に高まった。

今回は、トランプ氏の生来の資質と不動産王としての経験を踏まえて、「トランプ流の交渉戦略」を分析する。